第68話 世界
シエスが満足した後で、僕らは三人で校長室へ向かった。
魔導学校の主棟の窓から見える外は、暗かった。シエスを背負って魔導学校まで辿り着いた時のことはよく覚えていないけれど、周囲は暗かったような気がするから、僕はどうやら丸一日眠っていたようだ。
主棟を上りきって校長室に近付くと、いつものようにひとりでに校長室の扉が開いた。待たせてしまっただろうか。そう思いつつ部屋に入ると、中にはヴィドゥヌス校長と、ナシトと、意外なことにガエウスもいた。
校長は分かるけど、二人も僕を待っていたのだろうか。それとも、別用で校長の元に来ていたのだろうか。不思議に思いつつ、まずは校長に挨拶をしなければ。
「すみません、遅くなりました。勝手に倒れたのに、部屋まで用意して頂いてしまって。ありがとうございました」
「ほっほ。もう大丈夫そうじゃな。起きてからもしばらく、三人でお楽しみだったようじゃしのう」
校長が座ったまま不穏なことを言う。顔も、ガエウスがよくするようなにやけ顔になっている。僕が起きてからしばらく、休憩室でのんびりしていたことは全てお見通しのようだった。
前から思っていたけれど、この校長、落ち着いて見える一方で、根っこの部分はガエウスと同類なのかもしれない。
そう考えていると、案の定、ガエウスも乗っかってきた。
「おおっ、シエスっ!ついにロージャの攻略にせいこ――」
「……」
「……そういう感じじゃねえな、どうも」
シエスはガエウスの方を向いている。僕からシエスの表情は見えないけれど、纏う雰囲気が冷たい。ガエウスを睨んでいるようだった。あのガエウスを黙らせる程の眼光には、少しだけ興味があるけれど、今のシエスに声をかけるのは躊躇われた。
……なんだか微妙な空気になってしまった。話を変えよう。
「それで、お話とは。個人的には、シエスに埋め込まれたものについて、お聞きしたいのですが……」
「そうじゃな。だがまずは、儂から礼を言わせておくれ。お主らにはまたも魔導都市を救ってもらってしまった。お主らは、もうこの街の英雄じゃよ。魔導学校を代表して、ロージャ、お主に感謝を」
校長の声はいつになく真剣だった。
僕は少し困惑してしまう。確かに今回は想定外の事態も起きて、難局ではあったけれど、英雄というのは流石に仰々しすぎるような。
僕が黙っていると、校長は真剣な調子はそのままに、続けた。
「お主らが戦っていた頃、ダンジョンの辺りで魔素が一気に濃くなっておった。儂でもなかなか経験の無い魔素の膨れ具合での。ナシトに聞いた限りでは、ダンジョンには奇怪な男と、想定以上の魔物の群れ、それに悪魔までおったと。その量ならば、お主らがなんとかしなければ、間違いなく溢れておった。もし溢れておれば、迎撃の体制も整いきっていない魔導都市では、少なくない被害が出ておったじゃろうて」
そうだったのか。『大空洞』では、シエスの容態が心配で、加えて目の前の困難を切り抜けるのに必死で、事態の深刻さには気が回っていなかった。ならば僕らは、『溢れ』を防げたということか。
「トスラフは今回の功績を受けて、お主らの昇級を検討しておると聞いた。ガエウスとロージャは、今の等級が実質的には上限じゃから、難しいかもしれんが、の」
「……有り難いことですが、昇級に拘りはありません。街を守れたなら、それで良いと思っていますから。気持ちだけで十分――」
「んだァ?俺の等級は別に構わねえが、ロージャはもう第五等の実力じゃねえだろ。昇級できねえってのは、どういう了見だ」
意外にも、ガエウスが突っかかった。
パーティの長である僕が昇級すればその分僕ら単独で行けるダンジョンも増えるから、それが目的だろうけど、声の調子は真剣だった。
僕はガエウスの方を向いた。ガエウスは怒っていないものの、眼は剣呑な色をしていた。
「知ってるだろ。魔導が使えない僕は、今の第五等でも十分すぎるほど特例なんだ」
「魔導が使えねえなんてもう関係ねえだろ。お前は強えんだ。名誉なんざどうでもいいが、俺たちの力を、冒険を軽んじるのは、許さねえ」
ガエウスはそう言って、あからさまに不機嫌そうな顔をした。
ガエウスが等級に文句をつけるなんて珍しいなと思いつつ、僕にはガエウスの言葉と態度が、僕の強さを彼が認めてくれた証のように思えて、少し嬉しかった。
「ほっほ。まあ、そのあたりの文句はトスラフに言っとくれ」
「……けっ」
ガエウスはそれきり黙ってしまった。
今は校長の言う通りだろう。話を脱線させるべきじゃない。早く、シエスのことを聞きたい。
「それで、シエスの胸の、これについてなのですが。これは一体何なのでしょうか。シエスの身体に何か悪影響は、あるのでしょうか」
僕は本題に入るべく、意識して声に力を入れた。校長は変わらずに、いつものように気負わず凪いだような雰囲気で、僕をじっと見つめていた。
「……結論だけ言えば、今は大丈夫じゃ。今は、の。今後どうなるかは、儂にも分からん」
校長の言葉に、僕は安心したような不安が増したような、不思議な気持ちになる。思わず、横に立っていたシエスの肩に手をかけて、彼女を傍に寄せていた。シエスは何も言わず、僕の手に自分の手を重ねてくれていた。
「そうじゃのう。まずは少し、世界と魔素について、説明するところから始めようかのう」
校長はそう言って、立ち上がった。僕らの方に数歩歩み寄って、止まった。その手にはいつの間にか、小さめの杖が握られていた。
「儂らは此処で、日々魔素と、魔素に絡む全てについて研究しておる。魔素とは何か、いつからこの世界にあるのか。なぜ人は魔素をその身に蓄積できず、けれど魔導として利用できるのか。そして魔物とは何か。『果て』とは何か」
言いながら、校長は杖を振るった。杖から白いもやのようなものが吹き出し、校長の前で浮かんだ。徐々に白いもやが丸く、球のような形に変わっていく。
「勿論、まだ分からんことの方が多い。特に、いつから魔素がこの世界に存在するのかは、全く分かっておらん。けれど分かったこともある。……この世界には何らかの『法則』が存在して、それが世界を支配しながら、けれど『果て』とそこから生まれる魔素がその支配を乱している、とかの」
校長の前で、白い球は青と茶、それに緑と色付いていく。これは、なんだろう。
「これは、儂らの住む世界、じゃよ。世界は丸く、地と海は果てなく続いておる。この上に、儂らは生きておる」
球は最早もやのような曖昧な存在ではなく、僕には一つの生き物のように見えた。
「……それは、にわかには信じられませんが……」
僕の横で、ルシャがつぶやく。そうだ。教会の教えでは、世界は平らで、その果てには何も無く、ただ地と海が尽きる闇があるとされていたはずだ。そしてその闇に満ちた場所こそが、『果て』であるとも。
「この魔導学校は元々、魔導を教えるだけの学校じゃった。じゃが知っての通り、魔導には魔素が不可欠じゃ。効率的な魔導の運用のために、魔素についても研究するようになっての。それから色々なことが分かり始めた」
淡々と話す校長の前で、丸い球はただ浮いている。それはなんとなく綺麗で、僕は少しだけ見惚れてしまっていた。
「この世界が本当は丸い、というのは実はどうでもよいのじゃ。重要なのは、世界には『法則』があるということでの。毎日朝が来て、夜が来る。人は飛べないが、鳥は飛べる。鉄は火にくべると柔らかくなり、水は冷やすと凍る。それらは全て、『法則』に従ったものじゃ。儂らはその『法則』を正確には理解しておらんが、『法則』を利用して生きておる」
ややこしい話になりつつある。案の定、既にガエウスは興味を失ったようで、窓から外を眺めていた。
ルシャは真剣に聞いているけれど、目を白黒させている。教会での教えとの食い違いに四苦八苦しているようだった。
『法則』。それは、世界を支配している規則のようなものなのだろうか。確かに、なぜ木が火に燃えやすいのか、僕は知らないけれど、そういうものだと知っている。木こりの時、雷が落ちなくても山火事はごく稀に起きるものだと知っていたけれど、なぜ起こるのかは知らなかった。そういう常識は、確かに僕たちの生活に溶け込んでいる。
「世界には『法則』があって、この世の全てがそれに従って存在しておる。じゃが、魔素だけは違う。魔素はこの『法則』を、人の意思に応じて捻じ曲げる。この世界からすれば、魔素は異質の存在なのじゃよ。そしてその魔素は、なぜかこの世界の何処かから漏れ出しておる。そこが、今では『果て』と呼ばれておる」
校長がまた杖を振るった。
世界を模した球が崩れて、今度は白いもやが、人型に集まり始める。
「『果て』の存在は、神話や伝承で長いこと示唆されておったが、誰も実在を証明できておらんかった。今は誰も見つけておらんからの。『果て』がどんな場所なのか、そこに魔素を生み出す生き物がいるのか、それともその場所自体が魔素を生み出しているのかすら、分かってはおらん。じゃが、『果て』が存在していると仮定しなければ説明できない魔素絡みの事象が、多すぎてな。じゃから、『果て』は何処かに実在すると信じられてきた。そして今回、お主らは『果て』の住人に遭遇した。恐らく、大昔の伝承に僅かに残る記録以来、初めてじゃろう。……その、顔の無い男が言うには、『果て』は実在して、ここから東にあると。怪しい点もあるが、シエスの胸のそれがある以上、信じる他ない」
校長の前で、白いもやは完全に人となっていた。それはシエスと瓜二つの姿をしていた。僕は思わず隣にいるシエスを見てしまう。
本物のシエスは、僕の視線に気付くと僕を見上げて、不思議そうに首を傾げた。彼女にとってはどうやら見慣れた魔導らしかった。
「魔素は、この世界の住人である儂らにとって、異質の存在じゃ。じゃから吸い込みすぎると、酔う。身体が魔素を拒絶する。身体の中の『法則』がおかしくなるからとも言われておる。そういうこともあって儂らは魔素を蓄積できない。普通は一瞬だけ身体に流して、意思を乗せるのが限界じゃ。ほとんど毒と同じじゃの。……じゃが、シエスのそれは、体内で魔素を絶え間なく生んでいる。正に、『果て』そのものの、一部なのじゃろう」
もやでできたシエスがまたぼやけて、のっぺらぼうの白い人型に戻る。そしてその胸元から、赤い粒がその体内へ流れ出す。人型の全身がすぐに赤く染まる。
「シエスの体内には、今魔素が満ちておる。生み出されておる量は相当多くての、魔導を四六時中連発しても使い切るのが難しいほどじゃ。普通の魔導師なら、常時魔素酔いで立つこともままならんじゃろう。……シエスは魔素への耐性が異常に高いから、ぴんぴんしとるがの。結果だけ見れば、シエスは世界で唯一、自ら魔素を生み出せる魔導師となったという訳じゃ」
「……シエスに悪影響は、無いのですか?」
僕は納得できずに、思わず最初と同じことを聞いてしまう。シエスがいかに魔素に強いといっても、何もない訳が無い。
「……長々と話したのにこんな答えで申し訳ないが、分からん。シエスの体質も、過去に例がないほど異常での。もしかすると、放っておいても無事なのかもしれん。じゃが、普通、魔素を一度に吸いすぎた魔導師は、死ぬ。魔素の許容量も、歳を重ねるごとに変わった例もある。シエスだけはそうならないとは、言い切れん」
シエスの肩を握る手に、力が込もってしまう。シエスはこちらを見上げているけれど、僕はシエスを見ることもできず、ただ校長の言葉に集中していた。
「シエスのそれは『果て』と繋がっておると、儂は見ておる。それはシエスの心の臓まで固着しておって、儂らでは切り離せん。顔無しの男の言う通り、それをシエスから取り除くには、『果て』そのものを消す他ないのじゃろう」
そう言って、校長は杖を振るって、魔導を消した。
しばらく、誰も何も言わなかった。静寂が僕らを包んだ。
僕は、どうするべきだろう。
一瞬考えて、けれどすぐに答えを見つけて、笑った。
そんなもの、悩むまでもない。『果て』に行かなければシエスが危ないのなら、『果て』に行く。『果て』を潰さなければシエスが助からないのなら、潰してみせる。
もう何も失わない。そのために全てを尽くしながら、皆の傍にいる。そうやって生きると、もう決めた。
「分かりました。なら僕らは、『果て』へ向かいます」
僕は短く、それだけを述べた。
仲間がどう思うかなんて、もう聞くまでもなかった。シエスが死ぬかもしれないのに、それを見過ごす人なんて、僕の仲間にはいない。そう信じている。
「……良い眼になったのう」
校長は嬉しそうに、優しい眼で僕を見ていた。ガエウスもいつの間にか、鋭く笑いながらこちらを見ている。
僕は何か変わったのだろうか。分からないけれど、前を向いて、前に進もうと思っていることは確かだ。僕がそう思えているのは、みんなのおかげだということも。
「……校長、私も付いていきます」
ずっと存在感を消していたナシトが、今日初めて口を開いた。
すっかり忘れていたけれど、ナシトは学校付きの魔導師でもあるのだった。僕自身も非常勤ながら魔導学校に勤めている身でもあるのだし、少し強引すぎただろうか。けれど、引く気はない。
校長はナシトの言葉を聞いて、少し悲しそうな顔をした。
「……まあ、そうなるのう。お主には儂の後を継いでほしかったのじゃがのう。……ロジオンたちと一緒におる時のお主は、ひどく楽しそうでの。シエスの魔導も、お主が共に行き導けば、高みに至れるじゃろ。……こうなるのも、必定じゃて」
「……長いこと、世話になりました」
「行ってこい、放蕩息子よ」
校長の言葉に、耳を疑った。息子?ナシトは、ヴィドゥヌス校長の息子だったのか?親子に見えたことはなかったし、完全に初耳で、驚いてしまう。けれど今は、二人の会話に入れる雰囲気ではなかった。
「あ、でも事が終わったらちゃんと帰ってくるのじゃぞ?儂、そろそろ校長辞めて隠居生活したいし」
「世話になりました」
「絶対に帰ってくるのじゃぞ?」
「世話になりました」
校長の念押しを、流すナシト。急に空気が和らいだ。ルシャは校長の地位を譲り合う二人を見て笑っていた。僕も思わず笑ってしまう。
ナシトは、校長って柄ではない気もするけれど。
それから、校長とナシトのやり取りが落ち着いた後で、校長に礼を言って自分の家に戻ろうとした時だった。
「ロジオン。お主は、少しだけ残ってくれるかの」
校長に引き止められた。言われた通り、僕だけが校長室に残る。
シエスは僕と一緒に残ろうとしたけれど、ナシトに魔導か何かで引きずられていった。部屋を出ていく時の、シエスの恨めしそうなジト目が頭から離れない。後でちゃんと言い訳を考えておかないと。
シエスを無理矢理に除いたということは、恐らくシエス絡みのことだろう。少しだけ気を引き締めた。
「まずは察しの通り、シエスのことじゃが。実は魔素について、あと一つだけ言っておくべきことがあっての。……魔素は、人の意思をもって『法則』を歪めると同時に、実は我々魔導師の意思そのものにも、作用していると言われておる」
校長の声は静かだった。
意思に作用する、とはどういうことだろう。
「魔素は、扱うほどにほんの僅かずつ、人の意思を鋭く、野蛮にしていく。簡単に言ってしまえば、魔導を使い続けると、欲望に呑まれやすくなる、ということじゃ」
「……欲深くなる、ということですか?」
校長に、問う。魔導に関する書は昔、ある程度読み漁ったけれど、そんな話は今まで聞いたことがなかった。魔導を扱うと、心のあり様が意識できないほど僅かずつ変わっていくということなのだろうか。よく分からない。
「欲深いとは、また少し異なる。魔素の許容量と同じで、人によるところも大きいのじゃが。魔導師の中に元々あった欲が、魔導の常用によって強まるという研究結果がある。普通は、魔素を過剰に吸わなければ問題無いともされておるが、シエスは普段から魔素漬けになっておるから、例えば性格のような、内面が急激に変わってしまうこともあり得ると、儂は考えておる」
校長の言葉に、背筋が震えた。
シエスが、変わる。それは、嫌だった。そう思ってしまう自分も、少し嫌だった。僕は、これからシエスが成長して変わっていったとして、その変化まで拒否してしまうような気がして。
もしシエスの心が変わったら、僕はどうするべきだろう。シエスがもう僕の元からいたくないと思うようになったら。僕は耐えられるだろうか。
たぶん、耐えられない。今度こそ、僕は折れてしまう気がする。
だけど、それなら。
シエスが変わっても、僕の傍にいたいと思ってくれるように、言葉を尽くそう。
そう思って、そういえば、僕はまだルシャにもシエスにも、きちんと想いを告げていないということに、ようやく気が付いた。
傍にいてほしいとだけ伝えて、けれどどうして傍にいてほしいのか、言葉にしていない。二人は僕のことが好きだと、きちんと言ってくれたのに。
思考が逸れてしまった。改めて集中し直して、校長を見る。
「分かりました。シエスの変化には、気を付けます。……シエスだけじゃない。仲間の皆がどう変わっても、僕は傍にいます」
そう言いきる。
「ほっほ。頼もしいの。……若者はあっという間に強くなっていく。羨ましい限りじゃよ」
校長はそう言って、笑う。けれどすぐに真剣な眼差しに戻った。
「長くなったが、最後に一つ。お主とルシャの『力』じゃが。……色々と調べてはみたが、過去にも例が無くての。ただ自らの意思だけで『法則』を捻じ曲げた結果が、お主らの持つ『力』だと思うのじゃが、魔素も伴わず、意思だけで『法則』を超えた話は、儂も聞いたことがない。お主らが特異なのか、それとも世界が変わり始めているのか」
「……この『力』については、ダンジョンで出会った例の男も、不思議がっていました」
「ふむ。すると恐らくは、まだ誰も知らない世界の秘密というやつじゃな。お主らが自ら、知っていくしかなかろうて。『果て』まで至れば、何か分かるかもしれん。興味が尽きんから、帰ってきたら、また教えておくれ」
そう語る校長は、楽しげだった。普段からいつも楽しげな人だけれど、普段よりも知的に、僕の『力』を面白がっている。彼はきっと、知識に生きる人なのだろう。
そう思うと、ひとつ心に引っかかるものがあった。
「……けれど、校長。もし僕らが『果て』を攻略して、魔素の湧き出す場所を潰してしまったら、魔導が使えなくなるかもしれません。そうすると、これまでの魔導の研究が全て台無しになってしまうのでは?」
それは、魔導学校にとっては死活問題のように思えた。
けれど校長は、僕の言葉を聞くと一瞬目を丸くして、すぐに声を上げて笑いだしてしまった。
「何を言うかと思えば。魔導が使えなくなれば、確かに経営的には一大事じゃが、儂ら学校の者のほとんどはただ、世界のあり様に興味があるだけでの。魔導と魔素が消え果てても、まだ世界がある。『法則』がある。知りたいことは尽きんのよ。だからお主は儂らなぞ気にせず、シエスを救ってくればええんじゃよ」
言い終えて、校長はまた笑った。
傍にいる大切な人を守るのが僕の生き方だとして、けれどヴィドゥヌス校長のような生き方も、きっと素晴らしいに違いない。
少なくとも僕には、僕の目の前で大口を開けて笑う大魔導師が、眩しく見えた。
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