それ以上、言葉は必要か?


「相変わらず……鈍感な女だな」

「な、な、なんですって」

 怒りに頬を染め、言葉をなくしたフロルは、緑の瞳をふるわせた。

 ギルティはその姿を見て、口元に笑みを浮かべた。

 そして歩み寄ると、フロルを力強く抱きしめた。

 ギルティはフロルの髪をなで、額にかかる髪をかきあげた。傷跡が残っていないことを確かめると、表情が和らいだ。

「言葉は面倒だ」

 赤い瞳が、フロルの瞳を見つめた。

「俺は、エーデムの姫をさらった。それ以上、言葉は必要か?」


(エーデムリング物語最終章・月の丘 より)



 乙女心がきゅん! とするギルティのプロポーズ。

 この二人がくっつく展開は、なかなか難しそうだったので、ほろっと来た人も多いのではないだろうか?

 言葉よりも行動で示すというのは、いかにもギルティらしいなぁ……と思うと同時に、彼のシャイで照れ屋な部分も見え隠れする。

 彼自身は、この恋愛を成就させる勇気は持てず、メルロイとの会話で、フロルに言うことはないか、と聞かれ「ない」と答えている。

 むしろ、フロルに逆プロポーズを受け、それに答えた……というべきか?


 恋愛に奥手……というか、愛という感情をうまく表現できないのが、ギルティなのだ。


 国を奪われた厳しい環境とはいえ、大事に育てられ、愛情を注がれるのが当たり前として育ったフロルは、きっと愛されるのが当然の権利……くらいに思っていたかも知れない。

 捨て子でありながら周りに助けられて育ったメルロイは、何かにつけ、人々が注いでくれる愛情に感謝を示す。

 そして、皇子でありながら身内に命を狙われ、異国を転々んとして成長したギルティは、愛というものに常に戸惑っている。


 このプロポーズはかっこいいが、後々、「言葉は面倒」が、大きな悲劇を生むことになる。

 愛情表現が下手なのは、やはり、欠点でもあり……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る