偽愛

 エーデム・シリーズの中では、異色の作品だ。

 なんとセックス・シーンがある。


 この作品を書いていた頃、なんとか性描写も書けるようになりたいな、と頑張っていたが……やはり、私には無理だった。

 こっぱずかしいのもあるし、あまりなぁ……エロくなるよりもエグくなるんだよなぁ。

 多分、ロマンチストすぎて、性は聖であって欲しい気持ちが強すぎるんだろうなぁ、肉っぽくならない。

 再公開にあたって、少し削った。


 そして、この作品は、レサの一人称で書いていて、ちょいとメイドさん風な感じだ。

 サガ・フロンティアのアセルス編の白薔薇姫のイメージがレサにはあり、ジーナの語り口に似せた。


 多少の加筆で『陽が沈む時』にも、レサの心情を書き加えた。

 が、当初は


 レサは、セルディに抱かれた。

 妻としてではない。セルディの心は、レサにはない。

 すべての心の支えを失って、すがるものがレサしかなかった。それだけだった。


 たったのこれだけだった。

 本当に、レサはかわいそうだ。報われない。


 レサは、幸せになれるチャンスがたくさんあった。

 でも、セルディに対する思いが、常に悪い選択をさせてしまう。

 頑張っても耐え忍んでも報われないアンデルセン童話を思い出しつつ、書いていたような気がする。

 


 後半のセルディは悪役で、どんどん人格も壊れていくから、冷たさを表現したかったのもある。セルディのウーレン族っぽい残虐性と、潔癖症ゆえの妙な責任感みたいなものもあったと思う。

 レサ視点からみたセルディは、その優しさが残酷だ。


 だが、セルディは本当にレサを愛していなかったのだろうか?


 彼は心を保てなくなると、リストカットを繰り返した。

 が、レサにすがることによって、心を保てていたのではないか? とも思う。だから、最後はレサをとても大事に、まるで恋人のように扱っていた。セルディにとっても、レサは大事な人だったと思うし、幸せを願っていたと思う。



『花乱〜からん〜』の中で、セルディが女性論っぽいことをいう場面がある。『偽愛』での彼の決断は、まさに、そこにある。

 そして……私は、個人的に最後にタカにレサを託すセルディが気に入っている。

 リューマの少年たちは、皆、レサが好きだったけれど、一番、彼女を愛していて、かつ、彼女を必要としていたのは、タカだった。

 後に、トビは、これをセルディの遺言だと感じて、タカの鈍感さを叱り飛ばした。トビは、セルディとレサが両思いだと思っていた、もしくは、そうなると思っていたからだ。

 でも、今から読み返してみたら、セルディが死ぬかもしれないと考えていたように思えず、たとえ、生きてもどっても、やはり、タカにレサを託したんじゃないのかな? と思う。

 おそらく、エーデムを捨ててしまった自分の側にいても、レサは不幸だとわかっていたんだろう、と。

 セルディは、レサのことを全く見ていなかったのではなく、十分に理解していて、かつ、誰が一番彼女を幸せにするか、も考えていたんだろう。


 レサがそれで十分と思えば、これはハッピーエンドでもある。

 が……そう思うには、随分と苦しい恋をしてしまった。

 一人称ゆえの報われなさだ。




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