化け猫

批判が殺到した作品

【化け猫】は、私のかなり初期作品で、思い入れの強いものだ。

 何がって……とにかく批判が殺到した。

 内容が……というよりも、文章が小説としてなしていない、小説というものを理解していない、物を書くための約束事が全く考慮されていない、というものだった。

 他人に文章を読ませようと公開するのであれば、もっと文章を勉強しなさい、という内容が押し寄せた……と言っても五人くらいからだが。


 最初に書いたように、私は三十歳過ぎてからの物書きで、それまで文章を書くことも読むこともあまりない生活を送っていて、語彙も少なく、表現力も乏しく、あっちゃー! な人間だった。

 いわば、ものが降りてきて仕方がないが、表現する力がなく、この年齢までズルズルと来てしまい、PCという武器を得て、やっと表現できるようになった……という情けなさである。


 文章を書くお約束事? それ、なんですかぁ?


 まぁ、今もあまり変わらないんですが。

 その当時は、ネットで小説を公開している人たちのほとんどは、かなり趣味で文章を書き込んでいる人か、プロ並みか……であって、本当のズブの素人ってのはあまりいなかったんじゃないかな? と思う。

 だから、こういう素人丸出しの作品に出会うと、腹を立てる人が多かったのかも知れない。

 そういう私も、あまりにも御都合主義の話を読まされると、時間を返せ! と腹が立ったりしたものだから、お互い様というのだろう。


 前置きが長くなってしまったけれど……。


 私は素直にその批判を受け止めて、この作品を何度か書き直そうと試みた。だが、ことごとく納得できるものにならなかった。

 再公開するにあたり、書き直して保存してある文章を読み返して、やはり、未熟で拙い初稿を、少し手直しして、そのままアップすることにした。



 もっとも批判されたのは、

「地の文で嘘をついてはいけない」

 という決まり事を無視していることだった。


 はい、私はそういうルールがあることを、全く知らなかった、この批評で初めて知って、そうか、なるほどー! と納得した。

 唯一、それが許されるのは、一人称で語っている時だ、とも教えてもらった。なるほどー! と納得した。

 そして、そういうルールを知ると、確かに、それを無視して書かれているものには、なんだか違和感を覚えるようになるから、人間って不思議だ。


 そこで化け猫の一人称で書き直しを試みたのだが……。

 うまく表現できなかった。


 次に、表現力の乏しさも、かなり厳しく批評された。


 ここは、山奥。

 荒れ果てたお屋敷。


 なんですか? これは……というものだ。

 どんな山奥なのか、どんな屋敷なのか、さっぱりわからないではないか、という厳しいお言葉。

 さらに、「キャットフードなるもの」「離婚届なるもの」の「なるもの」はずるい表現だ、用いるべきではない、と。

 これは書き直したが、作品の性質上、山奥や屋敷の細かな描写は無理だった。

 タネを明かせば、山奥もお屋敷も、先に指摘された地の文の嘘であって、猫の妄想でしかない代物であるからだ。

 都会の一角、少し古臭い街角、下町の小路の奥の、古びたアパートが山奥のお屋敷の正体だ。人だって住んでいる。


 私は、この作品をはじめは漫画で書こうとしていた。

 山奥の古臭いお屋敷に猫耳をした人間の姿で……そう、ちょうどその頃、『綿の国星』という猫の漫画があり、その影響を受けていた……描くつもりでいた。

 猫耳の人間の姿で化け猫が見ていた世界は山奥の鬱蒼とした森だったが、雨音と出会い、自らの妄想が崩れ、屋根の上から世界をみると、そこは大都会だった……という絵。そして、その次のコマからは猫耳の人間、つまり化け猫は消え、普通の猫になっている……というエンディングだった。

 残念ながら、画力がなかった。


 このお話は、現実逃避した女が一人暮らしを始め、そこに住み着いていた野良猫に餌をあげるようになった……というだけの話だ。

 現実を、化け猫目線で世界を歪めて描き、その異世界が崩壊するまでを書いた。

 おそらく、猫の一人称でうまくいかないな、と思ったのは、ラストに猫が「今までの世界は思い違いだった」と自覚させなければならないからだろう。

 三人称であれば、猫を擬人化する必要はない。

 人間的な思考をする化け猫は消えて、現実の世界にはただの猫が残った。


 私の結論としては……。

 せっかく貴重なアドバイスをたくさんいただいたけれど、やはり地の文で嘘をつくしかない作品なんじゃないかな? ということ。

 まあ、拙い表現は書き直す余地があるとしても、今の段階ではそれも難しい。

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