陽が沈む時

悲劇の伏線

『陽が沈む時』は悲劇である。


 そう書いてしまうと、一種のネタバレなのだが、この作品を公開した時のネット小説の常識で「悲劇と知らずに読んでしまう悲劇」を避けるため、ハッピーエンドじゃないことを、明記しておくことが礼儀のような風潮があった。

 しかも、この作品を書いている間にも、前作の感想などをいただき、登場人物たちのその後が幸せでありますように……などと、もらってしまうと、後ろめたい気持ちにもなったりした。


 そもそも『エーデムリング物語』は、一作目で完結で、続編は考えていなかった。

 気持ちいいエンディングで、爽やかな気持ちで書き終えた。

 が、実は、そのラストに悲劇の伏線が入っていて、やがて、それを回収したい、と思い始め、この作品を書くに至ったのだ。


 それは……。


 純血を重んじる純粋種の魔族王家同士の結婚。

 互いに混血を嫌う魔族ゆえ、生まれてくる子供たちの問題もある。

 大いなる嵐の前触れにはなるまいか? フロルは幸せになれるのか?

 エーデムにふく嵐は、王として命をかけてでも阻もう。妹の身になにかあるならば、兄として命をかけよう……。


 というセリスの心配だ。


 彼の心配ということは、この作品の影の大多数の人々が、その点を不安に思っているということだ。

 ハッピーエンドの影に、封じ込められた悲劇の要因が眠っていた。



 この作品の中で、最初に思い浮かんだのは、アルヴィだ。

 ウーレンの容姿にエーデムの角という、異形の姿で忌み嫌われる子供を描こうと思った。

 だが、それだけではストーリーが膨らまなかった。

 劣等感というものは、目の前に恵まれた存在があって、際立つものだ。


 セルディは、私が最も思い入れるキャラとなった。

 ただ、そこにいるだけで愛されてしまう弟に対し、常に劣等感を持ち続けつつ、愛されないことに悩み苦しんでいる。

 優しいけれど、心の奥は冷酷な部分があり、時々、顔をもたげてくる。



 今、この作品を見直しているのだが、書いていた当時はとても乗っていて、ほぼ徹夜で書き続け、おかげで精神的にかなり落ちてしまった。だから、見直しには勇気がいる。

 ただ……乗りすぎて、あらすじのように書いてしまったので、どうにか、もっと膨らめて、味わいある作品にしたいな、とも思っている。


 そして……できることなら『銀ムテ』の三幕後半前に公開したい。

 というのも、その頃あたりから『漆黒のジュエル』と重なる部分が出てきて、ジュエルを理解するには、やはり、アルヴィラント・ウーレンというキャラが、どういう生き方をしてきたのか? を、公開しておきたいな、と。

 ただし、先にこちらを読め、という気持ちはさらさらない。

 むしろ、後から、ああそうだったのか! ってのも、また、楽しいと思う。

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