エーデムリング物語外伝

迷宮にて =エーデムリング物語外伝=

 この作品は、かなり古い。

『エーデムリング物語』を書き終えてすぐ、くらいに書いたような気がする。

 いわば、番外編……なのだが、番外編というにはかなり長く、同じ舞台の別作品という位置かな? と思う。


 こういう作品は、読んでくださーい! というには迷う部分がある。

 作者としては、単独作品として楽しんでもらえるように書いた。

 でも……。

 本編のネタバレを含んでいるから、本編読んでから読んでね! と言うのもね。

 かといって、読んでから「ネタバレじゃん!」とお叱りを受けるのもね。

 結末を知って読むのと、知らないで読むのは、かなり印象が違うから。


 ……とはいえ、エーデムを読まず、これだけを読んでの感想が聞きたいな、と思ったりもする。

 作者はわがままだ。



 この作品の主人公は、セリスとエレナ。

『エーデムリング物語』で、かなり重要な脇役であるセリス。

 彼の苦労は、本編では人の話や想像でしか語られていない。それを本編に盛り込むのには無理があった。

 だから、後から別作品として書いてみたのが、この作品。


 迷宮に彷徨い、過去を振り返る……という複雑な構造になっている。

 おそらく、独立した作品として書いていたら、時系列で書いていたと思う。

 そこが、派生作品というところか……独立して書いた『銀のムテ人』とは、微妙に違うかな?


 私は、セリスというキャラが好きだ。

 銀髪で長い髪……ってところも、立場的にも、ちょっと「銀ムテ」のサリサにかぶる部分があるけれど、大きな違いは、揺ぎない信念を持っているところか。

 それゆえに、不器用だったり、人の心に無頓着だったり……で、悩み多き人物なのだが、だからこそ、同じように自分の信念にまっすぐでも考えなしな妹のフロルよりも、好感度が高いと思う。


 彼は、愛する人との関係がひたすらうまくいかないキャラだ。

 妹のフロルのことを、とても愛しているのだけれど、会えば常に喧嘩になってしまう。

 尊敬する父に対しては、コンプレックス。常に自分と父を比べては、落ち込んでいる。

 母にも、父の死によって、憎まれることを恐れて、距離をおくようになってしまう。

 本編でも、命をかけて守ろうとしているセラファン=メルロイに対し、大事にしすぎて監視をつけすぎて、不自由をいてしまう。


 セリスのエレナに対する想いは、けして燃え上がるような激しい恋ではない。

 多分、そんな激しい恋をしても、苦悩するだけで破綻するタイプだろう。


 元々は野心家で権力欲が高く、平民を見下すところがある彼が、エレナやエレナの父・ホルビンに心を許したのは、むしろ、「自分の感情に障らない」からではないだろうか?


 実は、書いてはいないが、セリスの父アルの物語もある。

 彼の悲劇的な死が、あまりにも似合わない……実に明るい物語の数々で、成長したメルロイのごとく、飄々としたキャラが、イズーに起こる事件を次々解決してゆくようなお話だ。

 アル・セルディンとジェイ・ホルビンの友情あっての、セリスとエレナでもある。


 別の番外編で、エレナのことをかすみ草に例えた。

 それ自体は儚く主役になりにくいが、主役を引き立てる重要な花だ。

 空気のように存在感のない、自分に障らない、どうでもいいような人が、実は、自分の中で欠けている部分を埋め合わせてくれる、大事な存在である……と気が付いてゆく……ゆっくりと育つ愛だ。


 その後、エーデム王であるセリスは、幾多の悲劇に見舞われる。

 家族を巻き込む不幸もある。

 だが、番外編『蒼白なるファセラ』で垣間見えるように、彼の一家は幸せな時を長く過ごした。

 父親として、夫としてのセリスは、とても優秀だったようだ。

 幼い頃、親の愛情を知らずに育ち、家庭を持っても子供にどのように接していいかわからず、ひたすら、王としての使命に燃えたギルティとは対照的に。



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