Le Ciel Bleu〜わたしの青い空

現代物は苦手


 私はファンタジーをメインに書いている。

 そもそも、子供の頃から頭の中に異世界を作って遊ぶのが好きだったから、当然といえば当然。

 だが、大人になってもファンタジーなのは、理由がある。

 どうも現実の世界を舞台にすると、書きたいことが書けない。

 書いてしまうと、精神的に参ってしまうことがある。


 かつて、『信じて神様・疑って悪魔』という恋愛物を書いた。

 舞台は、私の住んでいる土地、時代はバブル期だった。

 それが、色々調べたりしなくてもいい、自分の身の回りで起きたり、聞いたりしたことをアレンジして、その時代のその年代の女性に共感してもらえるような、作品にしやすい、と思ったからだ。


 ところが……。

「随分と、大変な恋愛をしてきたんですねぇ」とか「モデル誰ですか? 身近にいるんですか?」とか、些細な読者の反応が、気になって気になって仕方がなかった。

 それだけリアリティが出せたんだ、と喜べばいいのだが、いつ、知り合いが「ひどい! それ、もしかして私のこと?」などと言い出すんじゃないか、「あの人のことだよね?」と言い出すんじゃないか、と心配になって、眠れなくなったりもした。


 確かに、モデルにした部分があるからだ。

 だが、あの人とこの人をくっつけて、あの人が言っていたことをこの人に置き換えて……つまり、その人をモデルにしたというよりも、エピソードを生かしてキャラを作ったのだから、本当の本当に架空の人物。

 完全なるフィクションだ。

 ただ、そのエピソードだけを読むと、ああ、これ私が言ったことじゃない! となってしまう部分が、多々あったから後ろめたいし、責められても仕方がない。


 この作品は、私の書くファンタジーよりも人気があったかも知れない。

 でも、書いた当の本人は、精神的にはズタボロになった。

 以降、現代物を書くことは控えている。


 ファンタジーの世界を描くことは、いかに繊細な問題を描こうとも、現実社会を舞台にするよりは、フィルターがかかる。

 ばっさ、ばっさと人を殺したりしても、罪の意識が軽いのだ。

 生まれや容姿で人を差別しても、誰も傷つかないのだ。

 誰に気兼ねすることもなく、思いのままに切り込める。



 だから……。

 シェルのことを書くのは、正直、勇気がいる。


 シェルに関わってきた人がいる。

 生産者、育成に関わった人、競走馬時代のオーナー、トレーナー、厩務員。

 私がシェルのことを書くことで、どこかで、そういう人たちを傷つけてしまうのではないか?

 シェルを匿名にすることもできる。

 でも、それでは私の書きたいシェルのことを書く意味が半減する。

 私は、こうして書くことで、シェルと私が生きてきた証を、打ち立てたいのだ。


 その葛藤があり、でも、やっぱり書こう……と踏み切っての、連載。


 とりあえず、思いついたまま、何も考えず書いている。

 が……私の中には、常に、自分の思い違いや、逆に詳しく書きすぎることで、誰かを傷つけやしないか? という不安がある。


 だから、登場人物は皆、たとえイニシャルであっても、名前をつけない。

 曖昧にぼかしておきたいのだ。

 それで、随分と読み物としては、抽象的でリアリティがかけてしまっていることもわかっているが……仕方がない。


 ただ、馬の名前だけは、そのまま書いた。

 当然、その馬を知っている人は、傷つくかも知れない。

 だが……シェルの名前を出したのもそうだけれど、私には知ってほしいのだ。


 馬がどのような一生を送って、消えていくか……。

 一頭一頭の、生き様を。


 そのためには、名前が必要だ。

 名前は……魔力だ。

 鮮やかに、この世界に存在した、その証だ。


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