序・通信簿 3

 私が読書家だったのは、小学生の頃までだ。

 それ以降は、まぁ、時々本を読む……いや、ほとんど読まないか……いや、文章読むのは苦手だわ……になっていたと思う。

 書くほうはそれ以上で、とにかく文字を書くのが嫌で、役所で自分の名前を書けと言われるのも面倒な人間だ。

 読むのも書くのも無縁の生活をして、もう30歳を過ぎた頃か……。


 突然、降りてきた。


 昔から頭の中で温めていた話ではある。

 大学時代のノートの2ページ……2冊ではない、2ページだ……に、ざっとあらすじを書いてあるくらいの、私の中では大長編。

 時代は、おりしもネットが広がり始めて、文字は書かなくても打てばよくなっていた。

 多分、原稿用紙に書かなければならないのであったなら、私は何も書けなかっただろう。


 そうして、一気に書き上げたのが、処女作の【エーデムリング物語】だった。


 読んでくれた友人に、サイトを立ち上げて公開したら? とアドバイスされ、よくわからないまま、試行錯誤でサイトを作り、どんどか作品をアップしているうちに……。

 あれよ、あれよという間に、書いたものは山のようになってしまった。

 仲間にも恵まれ、サイトは好調、それなりに人気の作品もあり……。


 でも、私は所詮、ただの異世界の住人だったに過ぎない。


 その気になって投稿もしたことがあるけれど、箸にも棒にもかからない。

 私には、自分の世界を書くしか能がなく、しかも、それを考察するような頭もなく、人に受けるようなものは何か? などと考えることもなく、人が望むような内容を膨らませることもなく……。

 小説のノウハウを勉強したこともなく、勉強する気もなく……語彙もなく、文章力もない。ただ、ひたすら降りてきたものを、ダラダラと文章にしては、悦に入るだけの物書きなのだ。

 自分はものすごい物語を考えている、それは頭の中にある、表に出せたら、それはそれはすごい大作になるんだけど……と、語り合った高校生の頃と何も変わらない、変わったのは、ネットという手段を得ただけだ。

 私は何も変わっていないのに、サイトの自分は虚構になっていったように思う。


 通信簿を気にし始めたら、降りてくるものがなくなった。

 異世界を構築するよりも、やっと得られた人の評価を下げたくなくて……。


 不思議なものだ。

 私の作品の中には、人の評価/アドバイスなしには、書き得なかったものもある。誰かの応援なしには、形にならなかったものも数多い。

【銀のムテ人】なんて、その最たるものだろう。

 愛読してくれた人たちには、感謝しかない。

 なのに、いつの間にか、身の丈以上の評価が欲しくなって、身動きが取れなくなる。



 そうして、書くのをやめて、もう10年にもなる。


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