第3話 夕暮れ
玲音が部屋に帰ってきてしばらくすると、院内学級が終わり、私と同じくらいかそれより小さな子たちが一斉に教室から出てきた。
そこで見た三十数人の院内学級の生徒は、どこにでもいる普通の小中学生たちに見えた。まるで、病になんか侵されていないように。
ここにいる人たちみんな、それぞれ違う悩みを持って生きているのよ、と矢野さんは静かに言った。
そういわれても、私は正直信じられなかった。
そのとき目の前にあったのは、今まで私が見ていた「学校」と、何ら変わらない世界だったからだ。
みんなが授業から解放され、デイ・ルームやプレイルームに行った隙に、私は夕暮れが覗く人気のない教室にひとりひっそりと入った。
木の机にホワイトボード、小さな電子ピアノ。
どこにでもある少人数学校のような空間だった。目の前にあった背の低い椅子に座ると、窓に映る、あかい夕暮れを乗せたせまいせまい校庭は、どこかあたたかく見えた。そっと窓を開けると、金木犀の香りがした。
コンコン、とドアを開ける音がした。
「佐倉さん」
聞いたことのない、まだ声変わりもしていない男の子の声が、私を呼んだ。
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