6話 蜂蜜

「パタパタパタ」




 橋の下へと向かった僕たちは湿った場所やイグアナの生息しそうな場所を探索する。



楼愛ろあ、何か手掛かりは見つかったかい?」

「いや、まだ何も見つかってないよ。」

「「・・・」」

 一晩中探して見つからなかったんだ、そう簡単に見つからないことくらい想定内だ。何より心配なのは僕たちと逆の方を探している温大おんだいの事だ、彼は昨日から一睡もせずにペットであるイグアナの探索をしている。

空祐そう君、ただひたすらに探し回るだけで見つかるなら苦労しないよ。」

 楼愛は何かをひらめいたかのように言った。

「と、いいますと?」

 彼女はドヤ顔でこういう

「罠だよ」

「その手があったか!」

 普段その辺を歩いている学校帰りの小学生でも思いつきそうな発想なのに高校生である僕たちはそんな簡単なことにも気が付かなかったなんて・・・

「そうと決まれば早速作ろ~う」

「お、お~」

 どんな罠を作るのか楼愛に尋ねると

「落とし穴を作るよー!」

「落とし穴で捕まえられるのか!?」

ちょっと天然な楼愛に困惑しつつも僕たちは落とし穴を作り始める。そもそもイグアナだったら落とし穴くらい登ってきそうという僕の意見は彼女の耳には入らない様子。

「まずはいい匂いのする蜂蜜でも入れてっと、その次に葉っぱで隠せば完璧!」

「ちょっ、おいおいこれ結構深いぞ、大丈夫か?そもそも君はどこから蜂蜜を?」

 穴が深いのはともかく蜂蜜はどこから持ってきたものなのか疑問だ。

「蜂蜜?空祐君質問攻めはナンセンスだよ。魅力的な女の子に秘密はつきものなの。」

「そ、そうなんだ・・・なら聞かないでおくよ。」

 本人曰く『魅力的だから秘密』らしい。女の子はよくわからん。

 その後僕たちは落とし穴の位置から少し離れたところを探し始める。とはいえ橋の下から移動したわけではない。なぜならイグアナが生息する環境はここが一番近いと思うからだ。





「ん?今落とし穴の方から『』って音がしなかった?」

 僕には聞こえなかったのでたぶん何かの勘違いだろうと思った。

「ねぇ、多分落とし穴に引っかかったんじゃない?」

「まさか、そんなことある?とりあえず見に行ってみるか。」

 楼愛が気になっているみたいだから僕も一緒に落とし穴のあるべき場所へ戻る。

「あれ空祐君、落とし穴ってどこだっけ。」

 楼愛が最後にかぶせた『葉っぱ』とやらのカモフラージュ率が高すぎて自分たちでもどこにあるかわからない。

「カサカサッ」

 少し離れたところから音がする。

「今の聞こえた?」

 楼愛が何かを見つけたような顔で言う。僕も聞こえたので楼愛に「行ってみようか」と声をかけ二人で歩きだす。

 三歩歩いたところで地面が少し柔らかかった、僕たちがこれを自分たちの仕掛けた『トラップ』だと気が付いた時にはもう遅かった。

「キャッ」

「うわぁ」

 楼愛が蜂蜜を入れて作った落とし穴に自ら落ちてしまったのだ。僕は甘い蜜でべとべとになっている彼女の上に覆いかぶさるような態勢で彼女の上にいる。

「空祐・・・くん?」

 彼女は僕の顔をみつめているが、僕は彼女の耳と顔が赤くなっているのを見て、いま自分が何をしているのかに気付く。

「ごめん。怪我とかしてない?」

「うん、でも服がべとべとになっちゃった。」

 と言い彼女は僕の家から着ていたジャージとその下に着ていたティーシャツを脱ぎ始める。

「・・・・・・」

 僕の思考は停止した。

「あ///ごめん////」

 彼女は幼馴染とはいえど、同級生の男の子の前で自分が恥ずかしい姿になっていることに気が付いたようだ。

「あ・・・ごめん。」

 反射的に僕も謝ってしまったがむしろありがとう。

「とりあえず僕のジャージは無事だからこれ、着な。」

「ありがと」





 何分か経ち僕たちが穴から抜けようとするが、楼愛の天然で深く掘りすぎてしまった穴から出るのはかなり困難だとわかった。


「どうしよう、出られないね。」

 楼愛がそんなことをつぶやいていると、上の方から音がする・・・・・・



「トコトコトコトコ」

「パタパタパタパタ」


 僕たちは上を見上げるとそこにはイグアナのシュヴァインを抱えた月代温大さかやきおんだいの姿が見える。

「君たち、どうしたの?」

 僕たちは危機的状況に現れてくれた温大に穴から出るのを手伝ってもらい、これに至るまでの経緯を一から説明した。

 どうやらシュヴァインは無事だったということでよかった。



 なにより『甘い蜜』に誘われた僕達は思い出に残るであろう恥ずかしい経験ができた。こんな思い出を作ってくれたのは温大、いやそのペットのシュヴァインのおかげだ。



「シュヴァイン、ありがとう」

「伊月君どうかしたのかい?」

「ふふっ、なんでもないよ~」

 幼馴染の同級生、明石楼愛は顔を赤らめてそう言った。




「今日の二人なんだか変だなぁ」

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