4話 探し物

 あれから時は過ぎて春のほのかな暖かさはなくなり、むしむしとした梅雨つゆ湿気しっけに包まれる。

「暑いなぁ」

 僕は早起きして動画編集をする。途中に休憩をはさみ知り合いの動画配信者の動画を見ていた。その動画配信者の名前は『オユタン』

 彼は顔出し系の動画配信者で、周りからはイケメンと言われる部類の人間である。動画内でもスポーツをしたり手先が器用で模型を組み立てたりと完璧に見える人間だ。

今日は金曜日フライデー。多くの人は通勤通学をする素朴な平日だ。ホント辛いぜ。

何事もなく教室へ到着し自分の席に座る。

伊月いつき君」

「オユタンか、どうしたの?」

「学校でその名前を呼ぶのはやめてくれないかい?」

「ごめんごめん、温大おんだいどうしたの?」

「今日の放課後暇かい?」

 この月代さかやき温大おんだいというイケメンは五月後半から僕に話しかけてくるようになり、仲良くなった数少ない友達の一人である。

「ごめんね。温大。今日は楼愛と一緒に喫茶店に行くつもりなんだよ」

「えっ!本当に?僕も一緒に行っていい?」

「僕はいいけど楼愛に・・・」

 そこまで言いかけると彼は「ありがとう」と言ってどこかへ消えてゆく。



 時間は経ち放課後になる。楼愛とは喫茶店のいつもの席で待ち合わせをしているので別々にいくことになっている。

 喫茶店へ着き入口へはいると楼愛はいつもの席に座っていた。

「先に来ていたのか・・・」

 楼愛はいつも入り口とは背を向けた席に座っているためこちらには気づいていない。

 僕は楼愛のところまで行き向かい側へ座る。

「おまたせ」

「それはいいけど、なにかくっ付いてきてるよ。」

「ん?うおぉぉぉ」

 温大がくっ付いてきていたようだ。僕は気づかなかった。

「明石さん、こんにちは。同じクラスの月代さかやきです。」

「知ってるよ、月代さかやき君のことは・・・で、空祐そう君?どうして月代さかやき君を連れてきたの?」

「僕も分からないよ。今日お誘いはもらったけどまさかついてきているとは・・・」

「ぶー」

 楼愛は不機嫌そうに、しかめっ面を浮かべる。

「ところで今日はどうしたの?温大君」

 僕が質問をすると、彼は寂しげな顔で意外なことを言った。

「飼っていたイグアナが脱走したんだ。それで一緒に探してほしくて・・・」

「「え!?イグアナ?」」

 楼愛と僕は声を合わせてそう聞くと彼は「あれ?飼ってるの知らなかった?」と言い写真を見せてきた。僕は『オユタン』の動画でちらっと映ったことがあるためか見覚えがある気がした。

「わ~可愛い~本当に月代君が飼っているの?」

「うん、そうだよ。明石さんは見たことない?」

「もちろんあるよ!私オユタン君の大ファンだもん。」

「くっ」

 今なぜかは自分でもわからないけれどイラっとしてしまった。これはオユタンこと温大に対するねたみなのか、楼愛が僕よりも温大を求めているために自分がおとっていると感じたそねみなのか自分では全く分からない。

「と、ところで一緒に探すのはいいけどどこを探せばいいの?」

 僕は話を切り出した。

「んー。わからないよ」

「「え!?」」

 僕と楼愛は戸惑った、それもそのはず探してほしい本人はどこを探せばいいのかわからない。

「とりあえず街中探さない?」

 バカだ、温大は運動ができるが頭がバカだ。

「そ、そうだ!イグアナの生息地を調べてみればいいんだよ!」

 楼愛は案を出す。普通に思いつきそうな案だけどその時の僕は思いつかなかった。

「えーとね、砂漠から熱帯雨林に幅広く生息するって!」

「えぇー!この街には砂漠も熱帯雨林もないよ。僕の可愛いペットが見つからないよぉ」

 オネエみたいな話し方をした温大に思わず僕は引いてしまった。でも別に温大にそんな趣味はないから安心だ。

「河川敷とかどう?この季節にもなると橋の下あたりは草も少しは生えてるしじめじめしてるし熱帯雨林に近いと思うよ!」

 我ながら名案だとおもった。

「「いいね!」」

「ということで今日は解散!今日はもう暗いから明日藤崎先輩も呼んで四人で探そう。」

 すると温大は納得した顔でうなずく。

 しかし!意外なことに楼愛が嫌がる。

「雅先輩は呼ばなくていいんじゃない?」

「なんでだ?仲悪いのか?」

 すると少女は首を横に振る。

「違うけど・・・ほら先輩も最近番組出てばかりで忙しそうだったじゃん?だから休みの日はゆっくりしたいかなぁって」

「それもそうだね。じゃあ先輩を誘うのはやめようかな。これにて解散!時間は明日の朝に連絡する!」

聞こえなかったが楼愛は何かを小声でつぶやく。

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