3話 ダイヤモンド

 とても急展開ではあったが時間は戻ることも止まることもなく進み続けた。楼愛と藤崎先輩はエントリーを済ませ、開始三十分前ということで控室へ行った。僕は彼女たちに最前列を確保してもらい一番前の一番真ん中の席で待機している。モデルの明石楼愛あかいしろあと歌姫、藤崎雅ふじさきみやびのライブを無料&特等席で見られるのだから文句はない。むしろカメラを回して動画サイトにアップロードしたいくらいだ。

「やってきました『歌が上手い人決定コンテスト』です。」

 司会の若い男性の声とともに歓声が上がる。周りを見ると二階まで人が埋め尽くされている。僕はここにいてもいい人間なのか?

ということは毎年やっているのか?全く知らなかった」

そうこうしているうちにうたコンは始まった。出場者は全員合わせて五人、楼愛の出場順は四番目、藤崎先輩は五番目と楼愛にとってはあまりいい順番ではない。

「今年の一番手○○さんです!」

 四番目までは見る必要がないけど時間をつぶすにはちょうどいいか・・・




 一番目の人を見終わった。歌唱力が高くてびっくりした。ここの出場者は自信がある人しか来ないけどまさかここまでとは・・・

 三番目の人まで終わって次の出場者は楼愛だ。

 楼愛が入場してきた、なぜか僕の方まで緊張してきた。楼愛がステージ中央の自動扉から入場してくる。彼女の周りにはきらきらとしたものをまとっているように思えるほどほかの出場者とはオーラが違う。おそらくこれはモデルの仕事の時と同じ、本気の顔だ。

 楼愛はステージ中央に到着する。すると僕の方を少しはにかんだ笑顔で見てきた。本来なら長々と説明したいところだが可愛いとしか言いあらわすことのできない僕の語彙力を恨むが、そもそも誰かに説明することでもないか。

「エントリーナンバー4!明石楼愛。人気現役女子高生読者モデルの登場です!」

司会の人の盛大な紹介の後に聞き覚えのあるイントロが流れ、普段とは違う楼愛の声が聞こえ始める。曲はあの『藤崎雅』の曲だ。本人の声で聴くのはもちろんいいが、楼愛のきれいな声で聴くのは新鮮な感じがして観客の心を魅了みりょうする。




 楼愛の番が終わり。順番通りにコンテストは進み、次は五番目の藤崎先輩の番だ。順番的に楼愛が勝つには厳しいが同級生を信じることにする。しかしながら藤崎先輩のことも応援しているから複雑な気持ちが心の中をぐるぐると回る。

「エントリーナンバー5!あの人気歌手がここに!藤崎雅です!」

 楼愛が入場してくる時とは違い司会の紹介は藤崎先輩が入場する前にされた。すると自動扉が開き、テレビで見る時と同じものすごいオーラを放ちステージ中央に立つ。先輩は僕の方を余裕の表情で見つめ、にこりともせずに歌い始める。

 観客はどよめき、どうしてこんなところに『藤崎雅』がいるのかと疑問に思っていることだろう。彼女の歌声は言葉で例えることのできないくらい透き通りきれいなもので、残念ながら今日の出場者では誰も彼女にかなうはずがないと思った。




 藤崎雅の番は終わり、彼女は退場する。

「今回のコンテストの発表はこれで終わりになりますが皆さんお待ちかね、結果発表に移りたいと思います。出場された方はステージに中央に整列して下さい。」

 再び出場者がステージに集まる。

「それでは結果発表に移りたいと思います。本日の優勝者を発表します。」

 会場はしずまる。

「今回の優勝者は・・・」

 僕は手に汗を握る。

「明石楼愛さんです!皆さん盛大な拍手をお送りください!」

 会場は唖然としつつも歓声が上がる。僕は完全に雅先輩の勝ちだと思った。

「準優勝者は藤崎雅さんです。その他出場者の方々にも大きな拍手をお送りください。」

 このコンテストの審査員はそこそこ名の知れるアーティストの方だったので判定に間違いはない。

 ステージから出場者はいなくなり控え室に戻った。出場者の中に有名人が二人もいたので出待ちの観客もいるかもしれないため裏口から出ると先輩からメッセージが届く。

 裏口へ行き二人と合流した。

「残念ながら私の負けみたいだから、やくそく通り私はいなくなるからお二人で楽しんで」

 涙ぐんでいる先輩がそう言った。

「雅先輩。約束では空祐君とデートですが、二人でデートとは言っていませんでしたよ。」

「え?」

 涙がこぼれそうな先輩が疑問を表示すると、笑顔で楼愛は言う。

「だから、今日は先輩も一緒に三人で遊びましょう。先輩は空祐君と先に予定がはいっていましたし、空祐君を独り占めするのはいくら勝負に勝ったからと言っても罪悪感が残ってしまいますし。」

 僕は楼愛が天使のように見えた。楼愛のやさしさがあふれた瞬間だった。先輩もありがとうと感謝して涙をしまう。


 時刻はお昼を回っていた。

「今日は二人とも頑張ったしお昼は僕がおごるよ。」

 そういうと二人は声を合わせて言った。

「「本当に!?」」

 それは無邪気な子供の様だった。

今日の一件で楼愛のやさしさを再認識することができたし泣きそうな藤崎先輩が可愛かったので、僕は振り回されそうになったけれど、彼女達ダイヤモンドが笑顔でいれるなら振り回されてもいいと思った。

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