2話 振り回しは拒否権なし

今日は土曜日。家にいてもすることがないので、近くのショッピングモールに新しい雑貨屋さんができたみたいだから楼愛ろあを誘って一緒に買い物に行こうと思ったが、電話をかけようと携帯を机の上から取ったその時。僕の携帯電話から電話の着信音が流れる。

「誰だ?」

 もちろん携帯電話が返事をするわけがないので、着信を確かめる。青いスマートフォンの画面の中に「藤崎雅ふじさきみやび」の名前が表記されていた。

「もしもし?藤崎先輩?こんなに朝早くにどうしたんですか?」

 藤崎は空祐そうの一つ年上の高校二年生で天才歌姫と周りから注目を浴びている歌手だ。

「空祐くん実はね、近くのショッピングモールに雑貨屋さんができたみたいなの。だから今日は空祐くんを誘って二人で遊びに行こうかと思って連絡したの」

 今日は楼愛とそこへ行くつもりだったが、楼愛とは約束をしていたわけではないので先輩と二人で遊びに行くのもいいだろう。

「いいですよ。丁度僕も今日そこに行こうと思っていましたので」

「じゃあ十時半に現地集合ね!」

「わかりました」

 そういって電話を切ると空祐は支度したくを始めた。あと二時間半もあるのか。

 そうだ・・・今日の動画を先にとってしまおう。そう思いついた空祐は自室にあるデスクトップパソコンの電源ボタンを指で押して、パソコンの電源を付けた。この作業は長いことやっているので慣れたものである。パソコンのパスワードくらいなら目を瞑ってでも打つことができる。

 僕は普段動画を撮るとき、何かゲームをするのが基本だ。それは遊びではなくゲーム実況というジャンルに当たるもので、僕の場合は、その時以外は数少ない友達に誘われることがないならゲームをやらない。視聴者さんにリアルな感覚を伝えたいからだ。

 かれこれ一時間ほどで動画は撮り終えてしまったが、まだ時間は一時間半もある。

「中途半端な時間だし編集するか迷うなぁ」

 とりあえず途中までは終わらせた。残りはあとでいいか。とにかく今は急がないと編集に集中していたせいで一時間も経ってしまった。残りは三十分しかない。家から現地までは丁度三十分で着く道のりだ。しかし、先輩と合流するということもあり急がないと待たせてしまう。

 玄関を出ると目の前には藤崎先輩が立っていた。

「おはよう」

「えっ!お、おはようございます。どうして家の前にいるんですか?」

「だって本当に来るか心配だったから・・・」

 僕が遅刻をしたことがないと思うけどなぜそんなに心配されているんだ?

「それじゃ、行きましょう。」

先輩はそういってバス停の方へと足を一歩二歩と進めてゆく。綺麗なロングの黒髪。白いシャツの上に緑のカーディガン藍色あいいろの少し長めなスカートがとても似合っている。先輩の私服を見るのは初めてではない。それに先輩が大人しめの服装なのはテレビに出る時も変わらないので、誰もが知っていることだ。

「最近は少し暖かくなってきたわね」

今日は五月一日。春は後半を迎えている。暖かくなってきたこともあり、今日は僕自身も少し、いつもより薄着である。青っぽいジーパンに半袖の白いシャツの上には赤のフード付きトレーナー。

バスが来た。いつも時間ぴったりに来ることが本当に素晴らしい。(時々遅れたりするけれど・・・)

「さあ、乗りましょう」

先輩は見た目のおとなしさとは裏腹に乗り物に乗るときやイベントごとには、とても興奮するらしくいつにないテンションの高さでバスの階段を駆け上がっていく。

十分が経ち、ショッピングモール前のバス停へバスが一時停車した。僕たちは料金を運転手さんの左にある精算機へ投下し僕は階段を普通に下りたが先輩は飛び降りてきた。

「本当に元気な人だなぁ・・・」

聞こえないようにそう呟いた。

「空祐くん」

「はい?」

「入り口どこだっけ」

 え?目の前にあるじゃんか。この人は天性のド天然なのか?

「よく見てください。ここですよ」

 僕は先輩にわかりやすいように、指をさして教えた。

「あら~こんなところに~」

 この人いつもはどうしているんだろう。

「先輩どうしますか?このまま雑貨屋に行くかほかを先に行くか決めましょう」

「そうね。雑貨屋さんを先に行きましょう」

 その言葉通り雑貨屋へ先に行くことにした。入り口を入ってすぐのエレベーターで三階まで上がる。雑貨屋さんへ到着すると、白クマの大きいぬいぐるみが目に入る。すると黒髪の女子高校生が隣からいなくなり瞬く間に白クマへと抱き付いていた。その横には注意書きで「お手を触れないでください」と書いてある。とりあえずその女子高生を引き離すと、後ろからよく聞きなれた声で質問が来る。

「空祐くん?」

 振り返るとそこには同級生の明石楼愛あかいしろあの姿があった。モデルをやっているだけあってとてもおしゃれだ。グレーのベレー帽に白と青のチェックシャツ、その上にはグリーンのベトシャツ、タンカラーのデニムがすべてうまく着こなされている。今日はカッコいい系の服装。なんでも着こなせてしまうのがうらやましい。

「あれ?楼愛。どうして今日はここにいるんだ?」

「今日はここの一階ステージで『歌が上手い人決定コンテスト』があるってモデル仲間から聞いて来たの」

 初耳だ。外に看板があっただろうけどド天然ガールと入り口に入るので周りには目が眩んでいたのかもしれない。

「空祐君は何しに来たの?」

「今日は暇だから藤崎先輩と一緒に雑貨屋さんを見に来たんだ。」

「藤崎先輩ってあの『藤崎雅』?」

「そうだよ」

 まあ藤崎先輩はうちの学校でも有名だから誰もが知っているよな。

「こんにちは、明石さん」

 先輩が挨拶をする。二人の共通点と言えば『藤崎雅』の新曲のミュージックビデオに楼愛が出ていたなぁ。

「お久しぶりです雅先輩。」

「先輩、この後『歌が上手い人決定コンテスト』というものがあるみたいなので楼愛は出場するみたいなので僕は出ませんが、先輩はどうします?」

「私出るなんて言ってないけど・・・」

「いいじゃない、明石さん。今日はこのコンテストで勝負をしましょう。勝ったほうが今日一日空祐くんとデートできる権利ね。」

「受けて立ちましょう。」

 僕『伊月空祐いつきそう』は美少女たちに振り回されることになりました

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