僕が好きな君は僕が好き。

十六夜 狐音

1話 何気ない日常

空祐そうくーん?」

 どこからともなく自分の名前を呼ぶ声がする。

「あれ、空祐くんだよね」

 同じクラスの女子の声がした。彼女の名前は明石楼愛あかいしろあ。空祐と同じ高校一年生。一年生の中ではトップクラスの可愛さである。それもそうだろう彼女はそこそこ名の知れる読者モデルだ。

「楼愛どうしたの?」

 楼愛が話しかけてくることはよくあることだ。どうせまた喫茶店きっさてんにでも行くのだろう。

「今日も喫茶店でお話しよー!」

「そう言うと思った」

「げっ、なんでばれたの!?」

「いつも楼愛が放課後に話しかけてくるとしたら喫茶店への誘いくらいじゃないか」

 今考えてみれば、楼愛と僕は仲が良く一緒に居ることが多い気がする。中学二年生の時に同じクラスになってから楼愛とはよく話すようになった。

 そんなこんなで喫茶店に着いた。喫茶店は学校からの帰り道にあり、楼愛と訪れることが多い。店の自動ドアを通るとコーヒーの香りがただよってきた。いつも通り入り口から一番遠い窓際の席に楼愛と二人で腰を下ろした。

「ねぇねぇ最近どう?」

「んー。どうと言われましても動画のほうも好評だし特に変わったことはないかな」

 空祐は動画投稿サイトで人気な動画配信者である。

「いや、動画のことじゃなくて、恋だよ恋!」

「恋?」

「うん!彼女とかできた?」

 そういえば最近、楼愛がやたらと僕の「恋」について気にかけてくる。

「特に何にもないけど・・・楼愛の方はどうなんだ?」

「べつになにも~」

 意外な発言ではあったが、おどろきはしなかった。なぜならこんなにも可愛くて性格がいいのに、彼氏ができたなんてことや今まで彼氏がいたなんてうわさを一度も聞いたことがない。

「好きな男とかもいないのか?」

 空祐が聞いてみると彼女は少し間を開け頬を赤らめて言った。

「ま、まぁ気になる程度の男の子ならいるけど・・・」

 うらやましい。その感情は彼女に対してではなく、彼女に気にかけてもらっている男に対してだ。

「わ、私のことはいいから空祐くんのお話をしましょう」

 彼女はなぜか自分の話を無理やり切り上げて僕の話へと移した。

「ほら、空祐くんってその、か、かっこいいし?トークも上手だから休みの日とか外を歩いていると声かけられたりするでしょ」

「あぁ時々声をかけられたりとかするけど、僕は顔出しをしてないゲーム動画配信者だから友達と話しているときに声がバレて本物ですか?って聞かれるけど顔バレはしたくないし違うって答えているよ」

「そうなんだ。色々大変なんだね」

「僕はまだいいほうだよ、顔出ししている配信者達は外に出たらそこは戦場。人気俳優かと思うほど声を掛けられるんだ。」

 本当に、人気になるとたいへんで顔出しをしている配信者は人が寄って囲んでサインや写真を求められるから身動きが取れなくなる、僕のようなゲーム配信者はそれに比べるといいほうだ。

「そんなことより空祐くん」

「なに?」

「気になる女の子いないの?」

「いません」

 今僕は嘘をついた。完全に嘘。本当は気になる女の子がいるよ。でも不意だったからつい、動揺して敬語になってしまった。

「ふーんつまんないの」

 そこからは何も変わったことが起きなかったので一時間ほど滞在してそれぞれ家へ帰った。

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