ぬくぽかじかん

 なんといってもこのコタツがいけない。ぬくぬくでぽかぽかだからいけない。気持ちよすぎる。気持ちよくてあったかくてぬくぬくでぽかぽか。だいじなことなので二かい考えました。


 わたしの正面でわたしと同じようにぬくぬくぽかぽかりゃくしてぬくぽかしてる太一たいちくんはといえば、うとうとと目をしばたたかせねむそうだ。うーむ、わが弟ながら情けない。


「こらー、たいちー! ねるなー!」

「うぅん……ねむい……」

「ばか太一ねるなあっ、パパが帰ってくるまで起きてるってやくそくしたでしょ!」

「……うん、がんばる」


 がんばれ。なあに、パパがお仕事から帰ってくるまでの辛ぼうだ。がんばれる。


 家族みんなで新しい年をむかえたいから、だから起きてようって思える。


 ママもクリスマスのときと違って夜ふかししててもおこらないし、やっぱり大みそかの力ってすげー。そんけーにあたいする。

 ……けどそうはいってもねむいものはねむいのですよ。


 原因その一、テレビ。さっきからずっと演歌のターン。つまんないねむいつまんない。オフクロさんってだれだよまじでー。

 ちなみに原因その二はぬくぽか。原因その三、ぬくぽか。原因いかりゃく。


 ねむけざましにとコタツ中央にあるみかんに手を伸ばしたところで、パパのおそいごはんを用意してたママが台所から顔を出した。


「パパ、まだ帰ってこられないっていうし……結花ゆかも太一も、もう寝たらどう?」

「それはだめ! みんないっしょじゃないと意味ないもん!」

「だけど結花、すごく眠たそう。今日はもう寝て、明日みんなで初詣に行こう?」

「うぅ……でもっ! もう、太一もなにか言って――」

「ふふっ、太一、寝ちゃったね」


 うぅぅ……太一のはくじょー者。意味知らないけど。

 太一の気持ちよさそうな寝顔を見てると、わたしまでますますねむくなる。


 だいたいいつもはこんなにおそくまで起きてないから、ねむくなるのも当然。むりなダイエットをしても急にはやせられないのと同じ。

 そういえばママ、ぜんぜん太ってないのにどうしてダイエットなんてしてるんだろう。女心ってむずかしー。


 そんなことを考えていると、


「お、起きてたのか結花」


 ふいに上から声がふってきた。


「あれ、パパ……? いつのまに?」

「ん? 今帰ってきたぞ。まだ大晦日だ、ただいま結花」

「そっか、間に合ったんだね。おかえり、パパ!」



     * * *



「おかえりなさい。あの子たち、ずっとパパのこと待ってたのよ。家族全員で新年を迎えるんだって」

「そうか。日付も変わっちゃったし、仕事とはいえ二人には悪いことしたかな」

「ママもパパも、しーっ!」

「お、起きてたのか太一」

「うん。でもゆかははくじょーものだから、さきにねちゃった」

「んーっ……間に合ったんだね……おかえりパパ……」

「ふふっ、結花ったら、よっぽど楽しみにしてたのね」


「――ただいま結花、太一。あけましておめでとう」



(2009年執筆)

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