第二話【アーキタイプ・センセーション(中)】

 セラフィノ修道女学院の朝は早い。

 いいや、単に朝風呂や化粧をする時間がかかるだけかもしれない。

「せめてベッドの数ももっと多くなればいいんだけどなぁ」

「そうやね~」

 ほら、隣で寝ていたリリアを起こしてしまった。

 全寮制のくせに部屋数もベッドも足りてない。結果的に適正人数2人の部屋に6人が入っていたり、ベッドに3人が押し込んで寝ているなんていうのも、ざらにある。

「学費が無料なことぐらいしか利点がないじゃん」

「ゼシカはそれで充分だとは思わないの?」

 そう声かけるのは既に学校へ行く準備を万全にした、テレサ・マーレッドという身長が高くてスタイルも頭も良い、おおよそ非の打ち所がない女だ。天賦の才と努力家という完璧主義の女だ。

 ブロンドの髪をまとめたポニーテール。高身長から繰り出す抜群のプロポーションは憧れを禁じ得ない。これで可愛げまであったら反則になるところだっただろう。

「じゃあ、このくそ狭いベッドに3人押し詰められて、一つの長机を仕切って使う現状を許せるの?」

「わ、私はき、嫌いじゃないけど……」

「なんで照れる」

「私も嫌いやないで?」

「リリアは着替え終わったんだ」

 リリア。リリア・テスタロッサ。肩まで伸ばした黒髪をウェーブさせて(本人は寝癖というけれど、奇跡的なバランスでそうは見えない)いる垂れ目で、惚けているような雰囲気で危なっかしい。そんな少女だ。

 食べた分の脂肪は優先的に胸にいき、巨乳ではなく爆乳な領域にいってしまった感があるが、そのせいか抱きしめるときの心地が柔らかくて気持ち良い。私はリリアのお腹の脂肪を揉むのが好きだ。

「うん。次はゼシカの番」

 リリアは私みたいな奴でも優しくしてくれて、とても素直で可愛いと思う。けど悪い奴にも簡単に騙されるようなことが結構あるのはこっちも大変だ。

「寝癖、まだ取れてないから後で梳かしてあげる」

「ありがとうな」

「朝の入浴も早めにね。ゼシカは長いから」

「登校時間よりも一時間以上早いのに、そんなこと言うのはテレサだけだよ」

「嘘。ぜったい嘘」


 私はゼシカ。ゼシカ・ヴァルナ。混血が進んだ時代に民族もないが、一応インド系ということになるらしい。

 テレサに比べれば身長は低いし、リリアに比べれば胸の大きさは小さい。でも、身長はともかく胸は平均よりも十二分に大きい。

「伸ばそうかな……」

 それなりに伸ばしているとはいえ、ショートカットの区分だと髪型によって印象がまったく違うものになってしまう。悩んだ挙げ句に結局は普段通りにしてしまうのが恒例になるとはいえ、様々な髪型を試してみたいし、ずっと同じものは飽きてしまうと感じていた。

 浴槽に浸かる前に全身を洗い流し、無駄毛を剃る。

 身だしなみを整えることは朝晩しなければ、結果的にみっともない姿で外出することになる訳で、自分の容姿に自信がある私としては耐えられない。

 そう考え事をしながら時間をかけてお湯に体を浸かると5分くらいで、テレサがそわそわしているのが扉の外からも声で分かるので上がることにするのが習慣的になってしまった。

「ゼシカ! アンダースーツと制服、置いといたからね」

「あー、忘れてた。ありがと」

「前みたいに全裸で部屋うろつかれると私が困るから」

「なんで? 別に平気じゃん」

「ど、どうしてそう無頓着なの!?」

「え?」

「! い、いいから早く着て。教室に行こう」

「分かった分かった」

 アンダースーツとは宇宙服の下着のようなものである。体に密着して整える。セラフィノ修道女学院の生徒は全員がこのアンダースーツの上に制服であるボレロを着ることが義務付けられていた。

「げ、サイズが合わなくなってるかも」

 密着するということは体のラインが浮き出るということで、ひどい時には乳首や陰部の大陰唇がくっきりしてしまうということもある。この場合はどっちもであった。股関部にはトイレパックを貼り付けて隠せるので気にしなくても良いが、胸部は学生服のボレロでかろうじて遮れるかどうか。

「セラフィノは女子校で教員も女性だから良いか」

 アンダースーツは複数の布の接続部かあり、その部分部分を外せば布面積にも余裕が出る。この裏技を使うことにした。

「ちょ、ちょっとゼシカ何してるの!」

「わぁ。大胆」

「どうよ」

 私の全身を覆っていたアンダースーツは今や、胸元と背中の下腹部から臀部、脇腹から太腿、脇から上腕部までが開かれたものとなっていた。自分の体には自信がある私なので露出することは恥ずかしくはないが、流石の私もこの痴女スタイルにはどん引きである。

「ハイレグにニーソックス履いてるみたい」

「お前な、アンダースーツは全身を覆っていて初めて機能するんだぞ!?」

「そうは言っても普通ならトイレパック以外、使わないじゃん」

「うっ、そうだけど!」

「ほら。行こう行こう」

 しかし、リリアは爆乳ということもあってか、密着した胸やお尻が完全に強調されている。もはや裸体にボディーペイントしたようにすら思えるのだが、リリア当人がまったく気にしていないので、この分なら別にここまでしなくても良かったかもしれない。

(失敗したかな)

 やり出した手前、もうこのままでも良いかなと開き直った。


「これから授業を始める前に転校生の紹介をします。出て来て」

「はい。今日から皆さんと一緒に学校生活を送らせていただく、レイシアといいます。よろしくお願いいたします」

(これ、制服っていうのか?)

(インターステラーのパイロット養成所みたいな所だから、慣れるというのもあるんじゃないですか? 実際、宇宙船の生活では普段着ですし)

 アンダースーツはある程度、伸縮するとはいえ布地ゆえに限界というものはある。特に女性の胸部や臀部というのは不均等に伸びる部分なので、どうしても面積を使用しやすい。

(でも、私が今まで着てたアンダースーツは高級品だったんですね……)

 セラフィノ修道女学院の殆どの生徒がそうだが、かなり高い確率で服装の意味を成していないのが多かった。成長期ということもあって丈が合わなくなるのだろう。

「テレサ・マーレッドの右に席を作りましたので、そこに座ってください。それからゼシカとリリア、テレサの三名は寮の部屋が同じになるので仲良くするように」

 指定された席は、教室の中では後方の窓際であった。シャオ君曰く、転校生の席ではよくあることらしい。

「よろしく。レイシアさん」

「テレサさん、こちらこそよろしくお願いします」

「さん……さんって正直さ、気まずいよね。皆呼び捨てだし。敬語みたいなのも止めたら?」

「ゼシカ!」

「え、えっと……ゼシカさん?」

 ゼシカと呼ばれた少女は、第一印象は可愛らしくも格好良いと誰もが思うだろう。己の美しさを理解して主張しているのだろう、その露出度の高さはある種羨ましくも思えた。堂々と自分が世界の中心だと強く思えるのなら、どれだけ良かったか。

「そうそう。よろしく。さん抜きでね、レイシア」

「私もな~」

「隣にいるのがリリア。レイシアの右のテレサは学級委員長もしてるから存分に頼っていいよ」

 私の前方にリリアさんという少女。事前に(誰にも知られず侵入した)確認した名簿ではリリア・テスタロッサと書かれてあった。その右隣、つまり右斜め上がゼシカさん。

「その通りですから、任せてくださいな」

「ありがとうございます」


「一限目はインターステラーの操縦法の訓練だから、全員練習場に集合するように」

 その一言で朝のホームルームは終了した。

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