READRAW COART
青羽根
第1話
気がついたら私は、晴れた海岸に突っ立っていた。
常に知る砂浜とは様子が異なり、足元を占めているのは色とりどりの丸みを帯びた小石達だ。
騒めく波の音に混じり、小石同士がぶつかるカロカロカロ…という澄んだリズムが聞こえる。
ここに来るまでのあやふやな記憶に戸惑っていると、背後から声を掛けられた。
「こちらは初めての様ですね?」
振り返れば、地元の人らしき老人が微笑んでいた。
「ここはREADRAW COART。地元ではカクヨム海岸と呼ばれています。創造の海と現世の狭間にある、物語の生まれる所ですよ。」
「物語の生まれる所…」
目をパチクリとさせ、私は老人の言葉を繰り返した。
「そうです。貴女の足元を占める小石の一つ一つが、海より打ち上げられた物語です。それらはこの岸辺に厚く堆積し、延々と遠くまでREADRAW COARTを形作っているのです。そしてここではしばしば、高品質なREADRAWであるJADERAWが見出され、磨きをかけて、外へと送り出されていくのです。」
「まぁ…素敵!」
私はパチリと、胸の前で両手を打ち合わせた。
「では、JADERAWを沢山見出せば、私は豊かになれるのですね?」
「いやいやお嬢さん、それは短慮と言うものですよ。」
老人は笑い声を上げて首を振った。
「確かにJADERAWは素晴らしい!しかしこの広大な海岸の中で、JADERAWしか拾わないのはもったいない限りだ。」
そういって老人は、足元から一掴みの小石を採り、私の手の中へ落とし込んだ。
「JADERAWといっても様々です。生まれたての角ばったもの、表面の風化が進んだもの、強い圧力で圧砕を起こしたもの。JADERAWの他にも、ロディン石、グロッシュラーガーネット、プレナイト、軟玉、石英に蛇紋岩。いくらでも探し出すことができるのです。貴女だけのお気に入りを探し出すことも、また楽しいはずですよ?」
「本当にそうだわ!」
手の中の小石達の多様さに、私も弾んだ声で答えた。
「私は私にピッタリの、素晴らしい物語を探してみたいわ!」
それから私は随分と長いこと、READRAW COARTを彷徨った。
JADERAWは勿論のこと、濡れると燃え上がるロディン石、滑らかな手触りのプレナイト、細かな彫りを入れた軟玉、自由奔放な泥岩、丸みを帯びたアルビタイト。
ありとあらゆる小石を抱え込んだ。
まだまだREADRAW COARTの一画を歩いただけなのに、私はその重さに足を取られる様になってきていた。
「随分と集められた様ですね。」
かけられた声はあの老人のものだった。
「ええ、おかげ様でこんなにもたくさんの物語が。」
私はそう言って、腕の中の小石達を揺すり上げ、カロカロカロ…と鳴らしてみせた。
「ただ…」
ふっ、と無意識にため息をもらす。
「まだまだ出逢う物語はあるのに、それはとても幸せなのに。なんだか幽かに、凝った塊を感じるんです。」
「…なるほどなるほど。」
老人はなにやら思案顔で、何度も何度もうなづいた。
「で、あれば貴女は、海に踏み出す時期なのでしょう。」
「海に?」
「出逢った物語達を取り込み咀嚼し、そうして新たな小石を生み出す様になる者もまた、数多く存在するのです。」
そして片手をあげ、遥か沖合を指差した。
「あちらです。仲間の多さに、貴女は驚くことでしょう。」
指し示された先を透かしみ、少しの逡巡ののちに私は歩き出した。
透明な水がくるぶしを濡らし、脛を越え、膝の上まで登ってくる。
トプン、と突然足元が深くなり、煌めく水面は私の頭上の空になった。
見回せば重なる透明な青のそこかしこに、小石を足元へと置く人影が見えた。
満ち足りた喜びを感じながら、私は私の最初の物語をつかみ出し、足元の小石達の中へと加えていった。
READRAW COART 青羽根 @seiuaohane
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます