第7話 そんなこんなで

 そんなこんなで、気がつけば三年の月日が経っていたわ。


 私たちはその間各地を旅して、ありとあらゆるおだんごを食べ……いえコホン、怪物退治をしたりしながら、【クロス】の行方を探し求めたの。


 わかってきたのはカナリアがけっこう凄い魔法使いだということ、私に魔法の才能はないってこと(最初にもらった装備の使い方も全然わからないわ!)、この時代の人間たちが神々を深く敬い、怪物を恐れていたということ。


 あとミッチー君は甘い蜜まきだんごが一等好きってこと。


「でもまさか、ここが【伝説の地】だったなんて……」


 この三年でカナリアの見た目はちっとも変わっていないけれど、声はいくらか大人っぽくなったみたい。


 私たちが今いるのは、ゆるやかな風が吹く丘の上。

 眼下には深い森があり、そしてその梢に囲まれるようにして、石造りの立派な建物が見えていたわ。


「さすがに盲点だったわねえ」

「はい。カナリアは全くそんな話、聞いたこともありませんでした」


 ふるふるとカナリアは首を振る。

 

 夕方の光が空を染め、眼下の森は暗い影に沈んでいる。

 薄闇に佇む建物は、私が想像していたよりも大きくて。いくつもの塔や離れを備えた、立派な造りをしていたわ。


 かつて私が一度だけ訪れた場所。

 けれどなにも知らないまま立ち去った場所。


「でも……、当然かもしれませんね。きっと後世には伝えられないほどの秘密だったのでしょう」

 

 おごそかにつぶやくカナリアの声。


 小さく見える幾つかの窓には、柔らかな明かりが灯っているのがわかる。

 影の中からゆっくりと、立ちのぼる白い煙のようなものも見える。


 そう、三年にわたる冒険の末、ついに私たちはたどり着いたの。


 始まりのこの地――。

 夕映えに佇む美しい建物、伝説の【キルト大聖堂】へ。



「思えば長い道のりでしたね、お姉さま」


 怪物の姿で真っ直ぐに聖堂を見つめて、カナリアが言う。

 ごつごつした岩の顔に表情らしいものは見えないけれど、今の私にはなんとなく、カナリアが満面の笑みを浮かべているのが分かっていたわ。


 その隣ではミッチー君が、さっき売店で買ったおだんごをもしゃもしゃ。三年で上背だけは伸びたけど、綺麗な容姿は変わらないわね。


「いろんなおだんごを食べました。甘いの、甘辛いの、香りのいいの。もちろん、手に入らなかったおだんごもありました。季節限定とかで――」


「…………」

 ミッチー君はおだんご食べ終わったみたい。


「でも全ては、今日で終わってしまうかもしれません。私たちは【伝説の地】へたどり着いたのですから……」


 ほんの少しさみしげな、カナリアの声。


 ゆっくりと夕焼けの色は夜に傾き、最後の残照を投げかける。

 森は漆黒の闇に染まり、獣や悪しき者たちの気配を漂わせる。


 けれど恐れることはないわ。

 今ここに、私たちの求め続けた答えがあるの。


 誰も見たことのない真実。

 この世界の最大の秘密。


「私たちの想いはいま叶う――」


 すっ、とカナリアの手が伸びて、まっすぐに丘の麓を示す。

 次の瞬間、私たちはいっせいに丘を蹴り、眼下に見える建物へと駆け出した!


「さあ、参りましょう。伝説の【おだんご】の元へ……!!」



 ――そのとき。


 突如目の前に白いもじゃ……いえ、大司教の法衣を着た髭の老人が現れ、その邪眼がスッと開くとともに、私たちの足元を魔法陣が飲み込んだ!


「去れ、次元を渡る悪魔よ。この世界から消えるがいい!」


 ええ――っ!? いったい何のこと――――!?

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