第1話 勇者よ、目覚めたか

「勇者よ、目覚めたか」


 ……。

 …………?


「驚くなかれ、ここはキルト大聖堂の一室。わしは大司教のヌイバリと申す。そなたは魔王との戦いに敗れ、いまここで復活を果たしたのじゃ」


 ……。

 …………ん?


「……うぬ、いまいち反応の薄い勇者じゃの。まあよい。出でよ、魔術の書」


 ……ええ……と?


 なんだろうこの、白い……。

 白い……もじゃもじゃした……。

 白い……。


「うむ、装備はそれで良かろう。あの娘のお古じゃがな。なかなかに力はいるが、勇者殿なら使いこなせようて」


 そうそう、おじいさん。


 なんだかこう、ふたつの手を、

 そうあれが人間の手、

 広げていて、なんかこうぐにゃぐにゃと……。


 ぐにゃぐにゃ……。

 …………ん?


「水鏡の魔法じゃよ。それが新たなおぬしの姿じゃ、どうかの?」


 どうかって、こう……

 なんか……

 なんていうか……ええと……


「――おお、さっそく召喚が始まったようじゃな! 安心なされよ、それはお仲間からの呼び出しじゃ。後はその者に聞かれるが良い。……さあ、勇者殿。次こそはあの魔王を倒してくだされ……!」



  **



 ――たてに、長いわ。


 たとえば、チョウの羽は三角。

 テントウムシは丸くて、

 アリはちいさな三つの粒、

 バッタは横に長くて、トカゲはもっと長い。

 カタツムリはくるくる巻いて、

 トンボやカマキリは逃げなくちゃ(食べられちゃう!)。


 だけど今の私は、

 そうね……あえていうなら、菜の花。


 まっすぐに縦に長く伸びて、先端がまるくて、

 まあ流石にあそこまで細くはないし、

 頭真っ黒で背中までずるっと長い……髪の毛? に覆われてて、

 あと何か『そうび』とやらが色々ごちゃっとくっついてるけど、

 それでも縦方向に長くて、上がまるいってところは一緒。


 そうね、悪くない気分よ。


 菜の花のように背筋を伸ばして、吹き抜ける風を頬に受ける。

 二本の足で柔らかな土を踏みしめ、飛べない両腕を空に伸ばしてみる。

 

 生まれ変わったの、私はもう一度!

 人間というカタチと思考を与えられて、新しく、この空の下に。



 ……それで一体、ここはどこなのかしら?

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