花園と地獄
あ、あれ?ここどこだっけ……?
あ、そうか……部屋に帰ったんだっけ?
あれ?なんだか体が重いような……。
「!?」
目の前の光景を見てシャルは体をはねのける。
「な、何やってるの!?」
目の前にはカルの顔があり、自分の服を見てみると、ボタンは外されてはだけている。
「あ、起きちゃったか……」
いつものカルではない……そんな表情だ。
「わ、私に何しようと……!」
「別にいいでしょ?ここからは出られない、なら、こんなことしても問題は無いよ?」
「ぐっ!へ、変態!カス!クズ!近づかないで!」
「威勢がいいのもまた、いいんだよね」
カルはシャルに詰め寄る。暗い部屋、その迫力はシャルをあとずらせた。
「あ……」
ついには角に追いつめられてしまい、逃げ場を失う。
「やめて……こないで……」
「ふふふ……」
カルの目は死んでいるような目だった。
(怖い……怖い……)
「うぅっ!」
いきなり頭痛に襲われ、座り込む。シャルの頭の中で記憶のようなものが再生された。
女の子が……男に……襲われている?女の子は泣きじゃくって抵抗するが、大人の力には反抗できず、押さえつけられて……初めてを奪われた。血が流れ出て、最後にこういった……。『酷いよ……お父さん』と……。
「やめて……!やめて……!」
意識が戻ると腕を縛られていた。
「なんで……こんな……」
「君を好きだからさ。君が可愛いからいけないんだよ?ふふっ……」
「やめて!やめてよ!お願い!」
「ダーメ。ふふっ、君の初めてをいただきます♪」
「うっ!あ……あ……。」
異物が体に入ってくる感覚に襲われる。吐き気がする。それに……痛い。
「う……うぅ……」
「泣いてるの?顔を見せてよ」
無理矢理腕を掴まれて涙で濡れた顔を晒さる。
「うっ、うあっ、お……あ……」
苦しい……苦しい……苦しい……苦しい……
やめて……やめて……やめて……やめて……
気持ち悪い……気持ち悪い……気持ち悪い…
「ほら、血が出てるよ……?ふふふっ……」
気味が悪い、聞きたくない、感じたくない。
何もかもが消えて欲しい、そうまで思った。
「もう……いや……」
体の奥に何か、熱いものを感じたと同時に、私の中で何かが切れた気がした……。
気がつくと右手にナイフを持っていた。
シャルはカルの拘束を解き、カルを蹴り飛ばす。
「しゃ、シャル……?や、やめてよ……。ちょっとしたおふざけじゃないか……。もうしないから……さ?ナイフを捨ててよ」
「無理……、私は痛かった。苦しかった。あなただけいい気持ちになるのはおかしいよね?だからさ、私にあなたを殺させて?」
「え、ちょ……まって……!」
カルが言い終わるまでにシャルのナイフはカルの目玉を貫いていた。
「……綺麗な私は死んだ。だから、汚いあなたも殺さなくちゃ。ふふふふ……ハハハハハ!キャハハハハハ!」
シャルははだけた姿で大声で笑った。
「うっ!」
だが、突然頭を抑えて倒れてしまう。
「う……グハっ!」
口からは血を吐く。いや……血ではない。
「な、なにこれ……。」
口から出た液体は徐々に分裂し、ウネウネと動き始めた。まるで、ミミズのようだ。こんなものが口から出たと思うとさらに吐き気がした。
「う、うっ……!」
ミミズのようなものは徐々にシャルの体にまとわりつく。
「やめて!やめてよ!やめ……あがっ!」
それらはシャルの口、鼻、性器、肛門から体の中に入ってくる。
「あ!?……あが……う……。」
喉に激痛が走る。声が出ない……。
喉を噛みちぎられたらしい。
気がつくと死んだはずのカルの死体が起き上がってこっちに近づいてきていた。その体はポロポロと崩れ、落ちたものはミミズのようなものに変わる。
「シャル……シャル……」
「……!?……!?」
逃げようとするものの、足はもう動かない。筋肉か何かを食いちぎられたようだ。
カルだったものはシャルの隣に座り、シャルの両頬を手で包み込む。
「フフフ……、シャル ガ ボク ヲ ウケイレナイ ナラ……、ボク ガ シャル ニ ナル」
「………………」
すると、カルだったものの顔の形が崩れ、ミミズのようなものに変化する。大量のミミズのようなものはシャルの顔にベタベタと落ち、まとわりつく。
「!?〜!?……!!」
声にならない悲鳴をあげるシャルの目玉を突き破ってミミズのようなものが頭に入り込んでくる。それらは脳みそまで食し始める。
もう、シャルには考えるということが出来なかった。何も感じないまま……死んだ。
「ん……?」
「あ、おはよう、シャル」
「あ、カル……」
今起きた……ということはさっきのは夢?夢でもあんなものを見るとカルと目を合わせずらくなる……。
「って言ってもずっと夕方だけどね……」
カルは笑って見せる。
シャルも薄々気づいていた。黄昏の館……、それは
日の入りの直後、地平線にまだ赤みが残った時間帯。そのオレンジの明かりへ永遠に取り残された館……。
つまり、この館には時という概念はない。全てのものは老いらず、時を重ねない。だから、この館に来て、1度も玄関の柱時計は0分を告げる音を奏でていない。
「どうしたの?顔が赤いよ……?」
カルが心配そうにシャルのおでこを触る。その瞬間、体が思わず拒否反応をしたが、カルは気づかなかったようだ。
「熱はないみたいだし……もう少し休む?」
「ううん、そんな暇ない。早く脱出しなくちゃ……」
「あのさ、しばらく別行動していいかな?」
「え……」
1人の不安とどこからか来る安心がぶつかる。
「分かった……でも、死なないでね?」
「わかってるよ、シャルこそ……ね?」
シャルは頷く。
「じゃあ、僕は2階を探してくるから、何かあったら大声で呼んでよ。大丈夫、奴らに聴覚はないから」
カルは笑いながら話したが、シャルは少し心配だ。また、1人……。1人……。1人……。
微かに頭が痛くなる。だが、カルにはバレないように平然と振る舞う。
「じゃあ、行ってくるね」
カルは鞄を背負い、扉から出ていった。1人取り残されたシャルは静かな部屋の中で時を感じる。時の概念が無いとは思えないほどしっかりとシャルは時を数えた。
「…………じゃあ、行くかな」
シャルは立ち上がり、部屋を出ようとする。その際、カルが置いていってくれたのだろう、シャルへ、と書かれた紙の下に置いてあるリュックを背負って部屋を出た。
まだ探索していない部屋は山ほどあるのだが……。
「なんでどれもこれも鍵がしまってるのよ……」
まぁ、予想はできていたが、ゲームで見るのと自分がやって見るのは違っていると痛感した。
「どれを確かめたか分からなくなる〜!」
廊下をぐるぐる回り、いくつものドアノブをひねり、いくつもの扉がしまっていることを確認した。だが、どこまで確認したかわからなくなってくる。なんせ、1階だけで何十という扉があるのだから。
「…………あ、これは空いてる。ってはじめの部屋か……」
シャルが初めてこの館で目覚めた部屋も今もなお健在していて、相変わらず薄暗い。なんだか、嫌な気配がするので入るのはやめておいた。
『入るのは1人のみ』みたいなことが書かれていた扉は綺麗になっている。
振り返り、廊下を歩く。
「ん?誰かいる?」
今、向こう側の扉に誰かが入った気がする。
「……カル?」
でも、カルは2階を調べに行ったはず……。この広い館、カルと出会ったのが偶然で他にも人がいる可能性は十分にある。シャルはその扉に向かった。
赤い絨毯が足裏を撫でる。気持ちいいような、気持ち悪いような……。そんな感触を覚えながら扉にたどり着く。
「…………」
あたりが静かすぎて自分の心臓の音が耳元で聞こえる気がする。シャルはドアノブに手を伸ばした。
ドンドンドンドンドン……。
「ひっ!」
思わず尻餅をつく。誰かが内側からドアを叩いている?
ドンドンドンドンドン!
その音は次第に強くなっている気がする。全身が震える。
ドンドンドンドンドン――――――。
「と、止まった?」
音はだんだん弱くなり、消えていった。そして、どこからともなく、女の子の声がした気がした。
『ふふっ、やっと入れてくれるんだね』
シャルはそれを聞いて心臓が止まるかと思った。
「な、中じゃなくて……外にいるの?」
だが、その質問に答えは帰ってこなかった。心臓の鼓動も穏やかになった頃、シャルはもう一度立ち上がり、開いた扉から中に入る。
「…………」
ライトは持っていないし、暗いだろうと思ったのだが……。
「あ、明るい……?」
扉の隙間からは漏れていなかったはずの明かりが部屋の中では神々しく輝いていた。
「……草?木もある……花も……。」
まるで植物園のような部屋だ。電気がある訳でもないのに、壁に書かれた絵の太陽が輝いている。
「ここはなんなの……?」
今まで見てきた部屋とは歴然とした差がある部屋の風景に戸惑う。そもそも部屋なのか?
「何の花だろう?バラ……?これしか分からないかも……」
あたりを探しても何かが見つかることはなく、ただの花園のようだ。シャルは次の部屋に行こうと扉を開く。背後から『また来てね』という声が聞こえた気がした。
「…………また来るよ」
その声は届いたのだろうか……ダレカに。
シャルは一通りの扉を確認した。だが、他に入れそうな場所はないようだ。
カルを探しに行ってみようか?そうも思ったが、2階はまだ秘境の地と言っても過言ではない。
カルを探し回っていれば、帰れなくなる恐れもある。じっとしている方が良いだろう……。
そう思い、シャルは安全な部屋に帰った。カルはやはりまだいない。それにしてもなんだか、リュックが重く感じる……。
溜息をつきながらリュックを下ろすとグチャっという異様な音が鳴った。
「え……な、なんで……?」
リュックから血が流れている。シャルは思わず後ずさった。リュックのチャックがゆっくりと開き……そこから小さな手が出てくる。次に足……体……頭……。
バラバラだったそれらはリュックから落ちるように飛び出し、気持ち悪い音を出しながらくっついていく。
「ひっ……!」
ソレは赤ちゃんの姿をしていた。だが、赤ちゃんではないのは分かった。胸からは血を流し、腕や足は変な方向を向いている。
「ま……ま……ぁ……。」
「や、やめ……!」
ソレはゆっくりとシャルに近づいた。蹴ればなんとか倒せそうな容姿だが何故か体が動かない。気がつくとソレはシャルの目の前にいた。
「ま……ま……ぁ……。」
「ち、違う……私は……!?」
ソレと目が合った瞬間、体に激痛が走る。四股が引っ張られているような痛みだ。
「あ……あぁ……が!」
「ま……ま……ぁ……。」
視線を外そうとしても何故か目玉がソレの方へと引っ張られるように動かない。
「…………」
口はぱくぱくと動くのに声が出ない。このままでは体が引きちぎられて―――――!
ガチャ
「消えろ!」
突然飛び込んできた誰かにソレは弾き飛ばされてしまう。神社のような飾りに触れたソレは煙のように消えた。
「は……はぁ……はぁ……。」
息が苦しい。まだ体が痛い。
「大丈夫!?」
そこにはカルがいた。安心したのかシャルはまた眠ってしまった。
「……ん、あ……」
「おはよう、シャル」
いつものカルだ。でも、どこか違う……。カルはシャルを支えて体を起こしてくれる。
「シャル、隠していたわけじゃないんだけど、さっきのこと……」
カルは申し訳なさそうに目を伏せている。
「赤ちゃんみたいなバケモノのこと……?」
「うん……ここには結界が張られているって前にも言ったよね?」
シャルは頷く。
「確かに化け物はここには入れない。でも、一つだけ例外があるんだ」
「例外……?」
「うん、それはね、『ヒトが化け物を連れ込んだ時』だよ」
「連れ込んだ?」
嫌な感じがした。そう言えばソレはリュックから出てきたんだ。外から持ち帰ったリュックから……。
「だからね、気をつけてほしい。さっきみたいに僕がいない場所で危険な目にあうかもしれない」
そうだ、カルが来なければ確実に死んでいた。
シャルの頭の中に、体がバラバラにされて死んでいる自分の姿が浮かぶ。
「…………」
自然と体が震える。
「シャル、もしかして、館の声に何か言ったの?」
館の声とはさっきの花園でのことだろうか……?
「また来てねって言われたからまた来るよって言ったけど……」
「それのせいだよ!きっと優しくしたことでシャルは魅入られてしまったんだ……」
「そ、そんな……」
誰かに優しくすることがいけないと言うの?誰かに優しくすることで自分が苦しまなくてはいけないの?
シャルには分からなかった。何が良くて何が悪いのか……。
「シャルはなにか見つけた?」
話題を変えるようにカルが質問する。
「ううん、花が沢山ある部屋しか開かなかった」
「花?」
「うん……」
カルは考えているふうだったが、なにか分かったようだ。
「僕も怪しい部屋を見つけたんだ。メモしておいたけど……」
カルは一枚の紙を出した。
四角いはこのようなものが3つ……。それぞれに文字が書いてある。
左には『信じ合う心』。
右には『幸福な愛』。
真ん中には『早すぎた恋』。
そう書かれている。
「あれ?これは?」
もうひとつ四角いものがある。
「あ、下手でごめんね。これは扉だよ。謎をとけば開くと思う……」
『信じ合う心』、『幸福な愛』、そして『早すぎた恋』。どこかで聞いたことがある気がする。
「あ、そうそう。入口にもこんなものが書いてあったんだ」
カルはもう1枚、紙を取り出す。そこには、
『1つあれば一目惚れ。
2つあるならこの世界は2人だけ。
3つであなたを愛する。
4つで死ぬまで気持ちは変わらない。
5つあるならあなたに出会えてよかった。
6つあればあなたに夢中。
7つあるなら密かな愛。
8つあればあなたに感謝。
9つあれば一緒にいて。
10ならあなたはすべてが完璧。
11で最も愛する。
12で私と付き合って。
13あれば永遠の友情。
21あるならあなただけに尽くします。
24あるなら一日中想っています。
50で恒久、
99で永遠の愛。
100で100%の愛。
101でこれ以上ないほど愛してる。
108で結婚してください。
365であなたが毎日恋しい。
999あるなら、何度生まれ変わってもあなたを愛する。』
「……よく書いたわね」
「いや〜そんな褒めないでよ〜!」
「ま、そうかもね……」
それにしてもなんなんだろう……。ポエムのようにも見えるが、365や24、これに目がつく。よく見る数字だからだろうか……?
「でも、どこかで見たことがある……」
シャルには見覚えがあった。記憶のそこから何かが飛び出そうとしている……。
「……でも、思い出せない」
「うーん、なんなんだろう……」
2人は頭を抱えていた。
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