第167話 アジュラの七竜

ラグマーン帝国は強兵と呼ばれていた……それを兵士たちも自負していた……しかし、今、空を舞う七つの竜によって自分たちの無力さを痛感させられていた……


「ぐあああっ!」


「矢だ! 矢で攻撃しろ!」

「ダメだ……こんな普通の矢ではダメージすら与えられん!」


アジュラの七竜の攻撃に混乱と死を振りまかれたラグマーン軍は、すでに軍としての力を失っていた……それを見ていたアジュラ王朝のサフェルリダ女王はその戦況を見て、全ての軍にラグマーンの殲滅を命じた。


「もはやラグマーンは烏合の衆、全ての軍に命じて地上からを消しされ!」


アジュラ王朝軍、150万が一斉に前進する……混乱するラグマーン軍は中途半端に反撃するが、完全に戦況はアジュラに傾いていた。


「くそっ! サフェルリダの女豹め……地龍軍団はどうした! 七竜を止めろ!」


ラグマーンのダーレン大将軍がそう命ずるが、その伝令すら届かないほどラグマーンは混乱していたのだ……


ラグマーンの自慢の地龍軍団であったが、上空から攻撃してくる七竜との戦いは苦戦を強いられていた……

「地龍たちが次々に……」


地上では絶対的な戦闘力を持つ地龍だが、空からの攻撃にはなす術がなかった……一体、また一体と倒されていく……


「あの空を飛び回ってる悪魔をどうにかしろ! バリスタはどうした! 十機、持ってきていたろう!」

ダーレン大将軍が大型弓の所在を聞いてそう部下に怒鳴る。

「すでに全機破壊されています!」


「くっ……こうなったらサフェルリダを直接殺してくれるわ……全軍を敵本営に向かって進軍させろ!」


このままでは七竜に全滅させられてしまう……そう考えての苦肉の策であったが、意外にも現状では最善の策であった……竜に空から焼かれながらも、ラグマーン軍は決死の攻撃を行なった、それは逃げ道もなく必死に足掻いている結果だったのだが、それにより地上のアジュラ王朝軍に少なくない被害をもたらしていた。


「死に花を咲かすか……」

そんなラグマーンの抵抗を、サフェルリダは考え深くそう呟いた……それは元の盟友に対する最大の賛辞であった……しかし、被害を黙って見ているほど北の女帝は甘くはない。


「中央の軍は少し後退、左右の軍はラグマーンを包み込むように前進せよ!」


アジュラ軍の中央に向かって前進するラグマーン軍は、後退する中央に向かって進んでいく……それをアジュラ軍は左右から包み込んで包囲していった……


気がつくとラグマーン軍はアジュラ軍に完全に包囲され、全方位から無情な攻撃を受けていた……アジュラ王朝、歴代最強と噂されるサフェルリダ女王……女王にして軍師の才を持ち、大将軍に匹敵する統率力を兼ね備えていた……


ラグマーンのダーレン大将軍は女豹と呼んだ女王と自分の力量の差を痛感していた……


「くっ……これまでか……」


包囲されたラグマーン軍は上空からは七竜の攻撃に晒され、地上では完全な包囲攻撃を受けていた……すでにそこは戦場ではなく、一方的な殺戮の場と化していた……


「サフェルリダ女王! ラグマーンから全面降伏の申し入れがございました!」


「……よかろう、もとは盟友のよしみじゃ、大将首と武器の放棄で許してやると答えよ」


サフェルリダ女王の返信を聞いたダーレン大将軍とその側近の将軍は、部下に武器の放棄を命令すると、自らの腹を裂いて自害した……



早期にラグマーンが敗れたことで、宇喜多歩華は窮地に立たされることになった……


「フリューゲルが死にラグマーンが敗れたか……」

フリューゲル大将軍の死と、ラグマーンの敗北の報が同時に届き、さすがの歩華も焦っていた……その焦りは最大の親友の動きに向けられる……


「瑠花……クルセイダは何してるのよ……」



阿波瑠花の率いるクルセイダ軍は、この状況にあっても、積極的な動きを見せていなかった……その理由は女王の心の中にあった……


「ミュシュル女王……エルサフィから参戦の要請が来ていますが……」

「……わかってます……まだ動かないで……」


瑠花はすごく個人的な感情で積極的な参戦を躊躇していた……親友に対する思いと、淡い恋心に揺れていたのだ……


やっぱりダメだ……飛田くんとは戦いたくない……それが瑠花の答えであった……



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