第166話 強者の中の強者
「フリューゲル大将軍! 敵の少数の部隊がこちらに突入してきます!」
「アースレイン軍は玉砕が好きなようだな……まあ、良い、包囲して殲滅しろ」
フリューゲルの本陣、数十万の兵力に突っ込んで来るアースレイン軍は、クリシュナ率いる竜人族の一団であった……その数1000……無謀に思えるその突撃だが、敵は大きな勘違いをしていた……クリシュナは誰よりも慎重な男だと言うことを……
クリシュナ率いる竜人族の部隊は、裕太がアースレイン王になった初期から使える古参の面子で構成されていて裕太からも信頼されている精鋭部隊だ……そんなこともあり、彼らには魔法装備が与えられていた……
元々戦闘力が桁違いに高い精鋭部隊なうえに、魔法装備で底上げされた力は想像を絶する……
「一人も倒せないとはどう言うことだ……」
フリューゲル大将軍の部下の将軍がそう嘆く……
「一人も倒せないどころか攻撃した我が軍はことごとく……」
溢れ出るマグマが、どんな障害物も物ともせずに突き進むように、クリシュナたちは突き進んだ……それを邪魔しようとする者はことごとく斬り伏せられて消炭とへと変えられた……
クリシュナがフリューゲル大将軍の前に現れた時には、彼らの通った跡には無数のエルサフィ兵の骸が転がっていた……その数は十万を数えた……
「チッ……面倒臭いの……まあ良い、どうだアースレインの将よ……我と一騎打ちで勝負を決めぬか」
フリューゲル大将軍はそう提案した……クリシュナは迷うことなくこう答えた。
「いいだろ、しかし……一騎で戦うのは我だけで良い、そちらは何人でもいいぞ」
「何だと……ふっ……そう言っても我が一人で戦うと計算したか……」
「いや……本当にいいのだ、面倒なのでまとめてかかってこい」
「舐めおって……十剣、前へでろ!」
フリューゲルのその言葉に、10人の将軍が前で出てくる……彼らは魔法装備に身を包んでいた……その中にはランザックを騙し討ちしたバルダガも含まれている……
「それだけでいいのか……少し少ないと思うが……」
クリシュナがそう言うと、フリューゲルの表情が歪む……
「くっ……ふざけおって……一騎も倒せずに殺されて、恥をかいて死ぬがいい……」
そう言うと、左手を上げて攻撃を指示した……10人の将軍は一斉にクリシュナに斬りかかった……全員が手柄を確信していた……自分の手で敵将を討つことを疑ってなかった……だが……
一瞬であった……間合いに入った瞬間、近づいた3人の将軍の体が真っ二つに斬り倒された……それに気づいた二人の将軍は後ろに下がろうとした……しかし、実際に後ろに下がれたのは一人だけだった……もう一人の首はすでに宙を舞っていた……
「くっ! 何だと!」
敵の力量が想像を超えるものだと理解した時にはすでに遅かった……一瞬で間合いを詰めてきたクリシュナに、さらに3人の将軍が上下に分断される……
「うっ……うあ〜!」
あまりの強さに、理解できない恐怖で混乱した将軍の一人は逃げ出そうとした……だが、その将軍はすでに殺されていた……後ろに振り向いた瞬間、体がポロポロと部品となって転がった……
「アドウザ、後ろだ、後ろに回れ!」
バルダガはそう叫んだ……アドウザはその言葉に従い、クリシュナの後ろに回り込もうとした……そしてクリシュナがそれに反応して後ろを振り向いた……その瞬間をバルダガは狙っていた……
「もらった!」
そう叫んで槍でクリシュナを突き刺した……が、強烈な胸の痛みに後ろに下がる……見るとバルダガの胸には小刀が突き刺さっていた……
「ぐっ……これは……」
朦朧としながらクリシュナの方を見ると、すでにアドウザは頭から体を両断されていた……そしてクリシュナは自分に向かってゆっくり歩いてきていた……
そしてバルダガの意識は永遠の暗闇へと落ちていく……
「じゅ……十剣が瞬殺だと……くっ……一騎打ちなどやめだ! 全軍、こやつらを皆殺しにしろ!」
フリューゲルがそう叫ぶと、周りで見ていたエルサフィ兵が一斉に動き出した……が、同時にクリシュナの部下たちも動く……竜人族は待ってましたとばかりに動き出したエルサフィ兵を蹴散らしていく……
「さて……ここで敵将を取れば楽ができるな……」
クリシュナはそう言うとフリューゲルに歩み寄った……それを見てフリューゲルは慌てて逃げようとする……
クリシュナが一歩、踏み込んだと思ったその刹那……すでにフリューゲルの真横に竜人族の長は立っていた……
「なぁ……」
それがフリューゲル大将軍の最後の言葉であった……彼の目に見えたのは歪んでいく視界と広がる暗闇であった……
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