第163話 赤い花は美しく舞う
獣魔団との戦闘に入り、アズキ師団はその戦力の大半を失っていた……
「密集しろ! まだだ、まだ道は作れる!」
アズキは一人、烈火の如く戦いを繰り広げていた……アブサプクスを騎兵ごと一刀両断にし、獣の首を飛ばし、騎兵を炎で焼き尽くした……
五十を超えるアブサプクスを血祭りにあげて、息を一つ、大きく吐き……周りを見渡したアズキは愕然とする……そこには味方の姿はすでになく……戦っているのはアズキ一人であった……
「残すは敵将のみだ、包囲して血祭りにあげろ!」
敵将の言葉に、妙な怒りがこみ上げてくる……アズキは怒号をあげた。
「私はエイメルの嫁になるんだ! こんなとこで死んでたまるか!」
すでに体力は残り少なくなっているアズキであったが、その限界を超えて動き始めた。
右からいた獣魔兵を剣を横に振り斬ると、高く跳躍する──そして前方の騎兵を上から突き殺すと、アブサプクスを奪い取った。
長年訓練してようやく乗りこなすアブサプクスをアズキは気合だけで操る……炎の魔剣を振り炎を撒き散らし、敵を焼き殺していたった……
「なんなのだ奴は……まるで炎の魔神ではないか……」
アズキの闘いぶりに、敵将も感嘆の声を上げる。
だが、アズキの体力は無限ではなかった……徐々にその動きは鈍くなっていき……敵の攻撃もかすり始める……
「はぁ……はぁ……エイメルと私は……」
一人で三桁の敵を討ち倒したが、周りを取り囲む敵の数は減っているように見えない……それでも気力だけは失わず、アズキは闘い続ける……
それは不意の攻撃だった……後ろからの槍の一撃がアズキの肩を貫く……油断ではなかった……強力で早い一撃に、体力の落ちていたアズキは反応できなかったのだ……その攻撃の主はワグディアの将軍である、ズワイデンであった……味方が圧倒的な有利のこの状況に、大将首を上げる為に駆けつけていた。
「ヘヘヘッ……手柄がこんなとこに転がって嫌がる……俺は本当に運のいい男だな」
肩を貫かれたアズキは地面に転がり、ズワイデンと距離をとった……
「はぁ……はぁ……くっ……右手が上がらない……」
肩の傷は深く、すでにアズキの腕は上がらなくなっていた……
「さて、それでは首を貰うとしよう……」
そう言ってズワイデンは槍を構えた……
すまん……エイメル……私は道を作りきれなかった……
さすがのアズキも死を覚悟したその時だった……
「アズキ〜〜〜!」
聞き慣れた声が響く……そのあと、ビューンと大きな音がすると、まるで砲弾が着弾したような勢いで、その声の主はアズキとズワイデンの間へと着地した。
「エイメル! どうして……」
「やっぱりアズキにだけ負担はかけられないと思ってね……急いで追いかけてきたんだ」
「エイメルだと……アースレインの国王の名前じゃねえか……」
ズワイデンがいやらしく微笑む……
「俺はアースレイン王国の王、エイメルだ……大事な部下が世話になったようだな……」
「ガハハハっ! これはこれは……この戦、最高の大将首が俺の前に飛んでくるとは……本当に俺は運がいい!」
しかし、本日が厄日であった事をズワイデンはすぐに知ることになる……
「ほら! 死ねやアースレイン王!」
ズワイデンの槍の一撃が裕太に襲いかかる……裕太は軽く剣を振りそれを跳ね返した……
一国の王が今の一撃を跳ね返すなど思ってもいなかったズワイデンは、一瞬、何が起こったか理解できなかった……そしてその王の一撃が自分の首を跳ね飛ばすのも理解できないまま絶命する……
「アズキ、立てるか」
「あっ……大丈夫……まだ戦える……」
「じゃあ、一緒に戦ってここを切り抜けよう!」
「……エイメル……見ろ、ほら、顔に傷がついたんだ……私……」
ほんのかすり傷のそれを見て、裕太は笑いながこう返事をした。
「よし、この戦いが終わって落ち着いたらアズキを貰うことにしよう」
「ほ……本当か!」
「嘘はつかないよ」
その言葉を聞いたアズキは自分でも気づかないうちに涙を流していた……
「やべ……視界が……」
アズキが涙を手で拭っていると、裕太の護衛で残していたアズキ師団の生き残りが二人を守るように乱入してきた。
「王とアズキ上位将軍をお守りしろ!」
裕太の護衛隊を指揮していたアズキの副官であるルサスがそう声をかける。アズキは自らの師団の精鋭を裕太につけていた、今生き残っているアズキ師団はアースレイン軍の中でも屈指の強者たちであった。アズキ師団の兵数は3万ほどであったが、一時的にワグディア軍を押し返す……
しかし、アズキ師団の猛攻も、ワグディア軍の本隊が動き出すことによって終わりを迎えることになる──
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