第162話 赤い戦女の思い

「エイメル、これから私が前方に道を作る、お前はそこをただ真っ直ぐ進んでこい」

「アズキ、俺も戦うぞ」

「ダメだ、バカ君主! 敵の中に突っ込むんだぞ、そんな危ないこと大将にさせられるかよ」

「でも、アズキだけが危険になるのは嫌だ」

「……本当にバカだな……本当に……私があんな連中にやられるわけないだろ……気にしないで後からこい!」

「確かにアズキがやられるとは思ってないけど……大怪我くらいはするかもしれないだろ……そんなことで顔とかに傷付いたらどうするんだよ、嫁の貰い手なくなるぞ」

「……嫁なんていかなくていい! それに……まあ、それはいいか……」

「『それに』てなんだよ、何かあるのか? 言ってみろよ」

「か……顔に傷がついて、嫁の貰い手がなくなったら……お……お前が責任取れよ……」

「え? 俺が責任って……」

「妾でもなんでもいいから貰えって言ってんだよ!」

もの凄い不器用であったが、それはアズキの愛の告白であった……裕太はそんな気持ちを理解したのかしてないのか、すぐにこう返事した。


「妾って……うん……そうだな、そうなったら責任とるよ」

「ほ……本当か!」

「嘘つかないよ……貰い手がなくなったら俺がアズキを貰うよ」

裕太はアズキのことが嫌いではなかった……素直で純粋で……女性としても魅力的と感じていたので、迷わずそう言っていた。


「くっ〜! よし! ちょっくら顔に傷つけてくら!」

「いや、無理には傷はつけなくていいんだって……」


アズキは師団を半分に分け、一つを裕太の護衛に残し、もう一つを突撃陣形に編成すると、北に布陣するワグディア軍へ向けて突撃を開始した。


アースレイン軍の中でも屈指の攻撃力を誇るアズキ師団の突撃は、ワグディア軍に脅威と驚きを与える──


「守りを固めろ! アースレインを絶対に突破させるな!」

ワグディア軍の総兵力200万だが、広く布陣していることもあり、実際にアズキ師団の突撃に対応できるのはその一部であった……それでも突破してくる5万のアズキに対して、30万のワグディア軍が立ちふさがる。


「全ての攻撃を前方に集中しろ! 前だけ見て進め!」


アズキは陣形の一番先頭で奮闘する、それを見ている部下たちの士気が自然と上がっていった。


先頭で戦うアズキの鬼神のような活躍もあり、ワグディア軍に杭を打ち込むように、アズキ師団は突き進んだ……当然のように前に進めば進むほど、アズキはワグディア軍に包囲される形となり、戦いは熾烈を極めた。


「アズキ様! 左翼の第3大隊が取り残され、敵軍に飲まれていきます!」


アズキはその報告を聞いて眉を細め歯を食いしばった……仲間を見捨てることなどできない性格である彼女だが、今回は目的が重すぎた……エイメルに道を作る……これは自らの命より優先すべき課題で、何事にも変えられないことであったのだ。

「全軍、前を向け! それだけを考えるんだ!」

そう命令するのが精一杯であった……


アズキ師団は包囲され、側面からどんどん戦力を削られていった……さらに前方には厄介な敵が立ちふさがる……

「なんだあのでっかい獣の群れは……」

それはワグディアの最強戦力である獣魔団であった……獣魔団は体長5メートルほどの獣、アブサプクスに騎兵が騎乗した部隊である……馬と違い、訓練されたアブサプクスは独自に戦闘をおこなうので、その戦闘力は騎兵の数倍とも言われている。


「どんな敵が塞がろうが、私らは前に行くしかない! 全軍、超戦闘態勢!」


アズキは獣魔団への突撃を命令した──


さすがのアズキ師団の精鋭も、巨大な獣を操る獣魔団には苦戦を強いられる……明らかに突撃のスピードは落ち、多くの兵がアブサプクスの餌食となっていく……

「獣兵には三位一体で戦え!」

一対一では不利だと判断したアズキであったが、数でも敵の方が多い……前に進むことも敵を殲滅することも難しい状況に陥っていた……

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