第160話 東西の戦い
自爆トカゲの攻撃で、半数近い兵を失い、陣形も崩されたランザック師団は窮地に陥っていた……
「第一、第二大隊の生き残りは中央に集まれ! 隊列など気にするな、とりあえず各個撃破されないように兵を集中しろ!」
「ランザック上級将軍! 敵軍の一部が後方に回りこんで来ます!」
「第四、第五大隊の残存兵はどれくらいだ」
「合わせても8000ほどかと……」
「苦しいかもしれんが、後方の敵はそれで迎え撃ってくれ……」
「は……はい……」
窮地のランザックと違い、ジュゼ師団は西側の敵を圧倒していた──
「無理をせず、防衛に集中しろ!」
守りのジュゼの異名はこの戦いで得たと言われており、その名に恥じない采配で、敵の攻撃を跳ね返す。
焦っていたのは西側の攻撃を任されていたエルサフィのバーグマン将軍だった。
「何をしておる! こちらの方が兵は多いのだぞ! どうしてあんな陣形を突破できんのだ!」
経験値の高い老将のバーグマンだが、頭の作りが固く、新しい戦術などの発想も対応もできない柔軟性の無い将軍であった……
ジュゼは防衛戦の中で、敵がセオリー通りの攻撃しかできないのを見抜き、セオリーを逆手に取った、戦法でバーグマンを完全に翻弄する。
「なぜだ、敵はどうして少数なのに兵力を分散している! あれでは各個撃破してくれと言っているようなものでは無いか……よし、全軍の攻撃を右翼の敵に集中! 一気に切り崩せ!」
敵の動きを見て、ジュゼはすぐに動いた。
「よし、敵が囮の軍に飛びついたな……本隊は迂回して敵の後方つく、狙うは敵将の首だ! 全軍全速力で行軍せよ!」
囮に飛びついたバーグマンは、もう一つの軍に後方から強襲されるとは夢にも思っていなかった……セオリー通りの隊列を重んじたバーグマンの軍は、後方に本営を置いた隊列になっている……そこをジュゼの本隊が襲い掛かった。
「後方から敵襲です!」
「馬鹿な! 敵は前方では無いのか!」
いくら兵力で優っていると言っても、本営の兵力だけではジュゼの強襲を跳ね返すことはできなかった……一瞬で深くまで切り込まれて、バーグマンはジュゼ師団の猛将、アルマンドによって討たれた。
バーグマンが討たれた西側のエルサフィ軍は、指揮系統がなくなり、烏合の衆とかした……数だけ多くても指揮も陣形も無い軍勢が統制のとれた精鋭揃いのジュゼ師団に抵抗することができるはずもなく、水に溶かされ消えていく雪のように見る見るうちにその数をうち減らしていった。
ジュゼ師団の攻勢はランザック師団の救いの手となっていた……後方に回り込んだ敵軍が、ジュゼ師団の攻撃範囲に入り、後ろから猛攻撃を受ける……
「西の友軍は何をしているのか!」
それには別働隊を指揮していたエルサフィの将軍も声を荒げた。
自爆トカゲに蹂躙されて劣勢になっていたランザック師団は、少数になりながらもその勇姿を失うことはなかった……生き残った兵力を集中させて、敵の本隊に決死の攻撃を開始した。
「幸いなことにジュゼの方は優勢のようだ……我々がここで果てようと、本来の目的は奴が叶えてくれよう……」
「ランザック上位将軍……」
「ジュルディア帝国がなくなってからもよく俺についてきてくれた……ダンブル、礼を言うぞ」
「いえ、こちらこそランザック上位将軍に仕えられて光栄でございます」
「それでは、散りに行くか……」
「はっ! 勢大に散ってみせましょう!」
最後の突撃にランザックが指揮したのは僅か1万の兵であった……敵の本隊は10万を超える……まさに無謀な攻撃であった。
密集陣形で敵陣へと突撃したランザック師団は、敵の中枢へと迷いなく突き進んでいく。
「周りの敵など相手にしなくていい! 前の敵だけ蹴散らして進め!」
捨て身の突撃は恐ろしいほどの攻撃力を産んだ……ランザック師団の進んだルート上の敵は、ボロ切れのように切り裂かれ、地に倒れていく……しかし、進めば進むほどランザック師団はすり減らされ小さくなっていく……
フリューゲル大将軍の前まできた時には、ランザック師団は数百人にまで減っていた……
「よくここまでこれたな……素晴らしい突撃だったぞ」
「敵の大将殿とお見受けする! 我はアースレインの上級大将、名はランザック……お手合わせ願いたい!」
フリューゲル大将軍にそんな一騎打ちを受ける理由などないが、自分に絶対の自信がある武人であるフリューゲルは、それを笑いながら受けた。
「ガハハハッ! 面白い、辺境の武将の力、見せてもらおうか!」
二人を中心に、全ての兵が距離をとって一騎打ちの舞台を演出する……ランザックは勝っても負けてもこれが最後の戦いになると予感していた──
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