第159話 猛壁

ランザックは軍を横一列に隊列させ、東側を守る壁のように布陣した。西側はジュゼに任せて、東の敵だけに集中する。

「敵を一人も通すな! ここで全て弾き返すぞ!」

腰を据えて戦う気になったランザック師団は強い……押されていた戦況を覆し、敵を押し返し始めた。


エルサフィのフリューゲル大将軍はランザック師団の変化を見て、早急に切り札を使う事を決断する。

「トロール隊を前へ!」

大きな体で剛腕……さらに再生能力まである怪物が500体……それがランザック師団の壁の中心に向かって突撃する。


剣や槍での攻撃では簡単に倒すことができないトロールは、ランザック師団の壁を掻き分けて侵入してくる──

「くそ! 剣で切ってもすぐに再生するぞ!」

トロールの再生能力に苦戦するランザック師団であったが、ランザックにも奥の手の戦力が存在した。


「ワータイガー部隊にあの怪物を蹴散らさせろ!」

ワータイガーはランザック師団最強の攻撃力を持つ獣人部隊であった、その牙は鋼鉄の鎧すら切り裂く──


アースレインのワータイガー部隊がエルサフィのトロール隊に襲いかかる。ワータイガーの素早い動きに翻弄されトロールたちは混乱する。


強固な防御力と再生能力を持つトロールでも、ワータイガーの攻撃力を凌駕することはできず、少しづつその数を減らされていった……


「デカブツの再生能力も大したことないぞ! 攻撃を集中して一体ずつ倒していけ!」

ランザックの指示を受けて、ランザック師団の動きがよくなる、苦戦していたトロール隊にも、ワータイガー部隊の攻撃力と、連携での集中攻撃により対処して、陣形に突入してきたトロール隊を一掃することに成功していた。


「くっ……レプセリカ女王よりお預かりした貴重な戦力を無駄にしよって……」

フリューゲル大将軍はトロール隊が殲滅したのを知って、トロール隊を出撃させた自分自身の采配ではなく、現場の指揮をとった将軍を責めていた……


トロール隊を失ったフリューゲル大将軍は、本気でランザック師団の壁の攻略に乗り出した……豊富な戦力を贅沢に使うその戦法に、ランザック師団も窮地に追いやられる。


「敵は軍を三つに分けた……これは面倒なことになりそうだな……」


フリューゲル大将軍は軍を三つに分けた、元々フリューゲルが指揮する戦力の半分は西側から攻撃させているので、ランザック師団と戦う東側の戦力をさらに三つに分けたことになる。それでも分けた軍一つでランザック師団と同等の戦力を有するので余裕の戦術と言えた。


左右に分かれたフリューゲルの分隊は、壁の裏側に回り込むように大きく旋回し始めた。ランザック師団の壁の強みは、前面に対するその防御能力にあった……裏からの攻撃には対処できない……しかしランザックはその備えを想定していた。

「全軍、円壁陣形で向かい討て!」


ランザック師団は横に伸びた壁を丸く変形させて死角をなくす……この陣形の変化には、敵将であるフリューゲルも感嘆の声を上げる。

「ほほう……よく訓練された軍だな……あれほど複雑な動きをすぐに行うとは……」


円形になったことで全方位の攻撃に対応できるようになった……しかし、それは自らの逃げ道をなくす決死の防御陣形の形と言えた。


敵の攻撃に対してランザック師団の円壁陣形は鉄壁の守りを見せた、襲いかかるエルサフィの攻撃を跳ね除ける。


「ふっ……やはりまともに攻撃してもあれは破れんか……仕方ない、自爆トカゲを使うぞ」


SR+自爆トカゲ……宇喜多歩華のガチャ産モンスター、腹に強力な爆発物を溜め込み、刺激を受けると大爆発を起こす──使い捨てなのがネックだが強力なモンスターであった。


放たれた自爆トカゲは10匹……それが四方からランザック師団へと突入した。


自爆トカゲの大きさは大きな犬ほどで全然戦闘力は高くないが、走るスピードは驚異的であった……突入してくる自爆トカゲに反応できる兵はほとんどいなく、壁の中央まで一気に入られてしまう……そしてランザック師団の奥底で自爆トカゲは大爆発を起こした。


「なんだ! 何が起こった!」

ランザックにも状況がわからず、そう呟くしかできない……

「と……トカゲが……」

「くっ……今の爆発での被害は!」

「詳しくはわかりませんが、陣形は崩壊……半数近い兵が爆死したかと……」


歴戦の強者であるランザックも、この状況には顔色を青く変化させて行く……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る