第155話 死地
第七大隊、第二大隊、第四大隊の3大隊は完全に包囲されていた──すでに陣形も崩され、不本意な乱戦で必死の戦いを行なっていた。
「できるだけ密集しろ! 個で戦うな!」
大隊長たちは檄を飛ばしながら自らも鬼神の如く戦っていた。そんな大隊長の最初の犠牲者は、第四大隊のグエイン族シュダー大隊長であった。
「大隊長! ここはもうダメです、他の大隊に合流しましょう!」
「ちっ……確かにそうだな……よし、できる限り兵をまとめて、俺に付いてくるように指示を出せ!」
その指示に辛うじて集まった部下を率いて、シュダーは第二大隊と合流を図ろうとした──だが、それをエルサフィの重装騎兵団が阻んでくる。
この時、シュダーが率いていたのは三千の兵であった──対する、エルサフィの重装騎兵団は二万、包囲されその機動力を発揮できない第四大隊はその数の暴力に蹂躙されていく。
「突破して第二大隊と合流するぞ!」
第四大隊は一点突破でその場を切り抜けようとした……だが、重装騎兵の防御力はシュダーの想像を上回り、突破するどころかその突撃は跳ね返される。
突破もできず、四方から攻撃を受けて第四大隊は打ち減らされていく……気が付けばシュダーの周りには十人ほどの兵しか残っていなかった──せめて一矢報いたい……そう考えたシュダーは、その十人の兵と敵将の元へと突撃する。しかし、その突撃は敵将まで届くことはなかった。シュダーは敵兵の三人を道ずれにして絶命する。
第四大隊が壊滅した時、第二大隊と第七大隊はなんとか合流に成功していた。その兵力は一万近くになり、なんとか敵の攻撃に耐えていた。
「ゲナンゲー! これは長くは持たないぞ」
戦況を見て、第二大隊の大隊長であるクルスクは、第七大隊大隊長のゲナンゲーにそう言う。
「そうだな……ここは俺たちの死に場所になりそうだ」
「なんとか少しでも、本隊に合流させてやれないかな……」
「……よし、どっちみち全滅は時間の問題だ、やるだけやってみるか」
二人の大隊長は、決死の突破戦を決行した──本隊のいる北側には第四大隊を壊滅させたエルサフィの重装騎兵団が布陣している。強固な防御力を誇る重装騎兵に、捨て身の突撃を繰り出したゲナンゲーたちは、最初の一撃で重装騎兵団の中心ほどまで突入することに成功する。しかし、それは四方からの攻撃にさらされることを意味し、急速に兵力を削られていった。
「諦めるな! 一人でも……一人でも突破できれば俺たちの勝ちだ!」
そう叫んだクルスクであったが、後方からのランスの一撃で頭を吹き飛ばされて絶命する。
最後に残った大隊長のゲナンゲーは最後の力を振り絞って、重装騎兵の壁を切り崩して前へと進む……無限かと思われたその分厚い壁にも終わりがやってきた……重装騎兵団を突破し、北側へと抜けることに成功したのだ──だけどその突破に成功したのは、僅か千騎ほどであった。
「よし、このまま本隊に合流するぞ!」
ゲナンゲーがそう言ってすぐに、彼らの前に絶望の光景が広がった……すでにルソ師団本隊も敵軍に囲まれ、北側も敵の軍ばかりになっていたのだ。
「くっ……もうこんな状況になっているのか……」
「大隊長、どうしますか」
「もう、我々に帰るところはない! 前方の敵軍に突撃するぞ!」
そんな無謀な命令であったが、ゲナンゲーの部下たちは、顔色も変えることなくそれに従った。
だが、突撃しようとした敵軍が巨大な爆発により吹き飛んだ──一撃で数千の敵兵が消滅する──ゲナンゲーが見上げると上空に友軍の姿を見る。
「リリス殿か!」
リリスは置き土産として魔法弾を敵の軍に撃ち落としていた。本当はもっと加勢したところだが、前方にいる強敵の存在を考えると、これ以上の魔力を消耗するわけにはいかなかった。
「さて、あやつらをこれ以上先に進めるのは危険じゃな……ちょっと骨が折れそうじゃが、片ずけてくれようか……」
リリスに向かっていくのはURスカイドラゴンを中心としたエルサフィの飛行軍団であった……スカイドラゴンだけでも厄介だが、十体のワイバーンと百体ものガーゴイル部隊も十分な脅威となるだろう。
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