第154話 最後尾の戦い

「全軍、密集陣形! 後退しつつ、敵を迎え撃つぞ!」

ルソの掛け声に、ルソ師団の全軍が奮起する。


ルソの率いる軍勢は、10万のルソ師団のみで、三方から迫り来る敵軍は数百万の大軍勢であった。絶望的なこの状況にも、ルソ師団の兵士達に悲壮感は漂ってはいない──それは自分たちがどれほど重要な役目を担っているか理解しているからであった。


最初の攻撃は、ルソ師団でもさらに最後尾に位置していた第七大隊が全てを受け止めた。第七大隊は熊の亜人、ベルア族を中心とした部隊で、攻撃力はもちろん強固な防御力を持ち、ルソ師団の中でも屈指の強さを誇った。


「返り討ちにしろ!」

第七大隊の大隊長であるベルア族のゲナンゲーは、迫り来る敵を見てそう叫んだ。

東から突撃した敵はラグマーン帝国の軽装兵団であった。武装が軽い分、動きが早く、追撃する部隊としては適任であった。しかし、戦闘力は並以下であり、一万ほどの兵力がありながら、同数規模のルソ師団第七大隊に、その攻撃は簡単に跳ね返される。だが、軽装兵団を退けても、次々と新たな敵軍が襲いかかる。


西から強襲してきたのはエルサフィ王国のダイアウルフ部隊であった。レアリティR+のガチャ産部隊は、数は五百と多くないが、その攻撃力と俊敏性は驚異的であった。さらに同時に南からクルセイダー王国の強襲騎馬部隊が突撃してくる──


ダイアウルフに陣形を崩され混乱していた第七大隊は、強襲騎馬部隊の突入に対処できなかった。戦いは乱戦となり、泥沼の消耗戦へと移行していた。


さすがの強兵であるベルア族は、ダイアウルフと強襲騎馬部隊を相手でも遅れをとることはなかった。圧倒することはできなくても、突入してきた敵兵を一人、また一人と倒していく。


そうやって半数ほどの敵を迎撃した時、南から、さらに敵の増援が参戦してくる。それはエルサフィ王国のゴブリン軍団であった。一つ、一つは大した戦力ではないゴブリンだが、その規模は十万にもなり、侮れない驚異であった。


まだダイアウルフと騎馬部隊と交戦中である第七大隊は、十万のゴブリン部隊の参戦に力押しされ始める……被害も大きくなっていき、隊の陣形を保っていくのも難しくなっていた。だがそこへ、ルソ師団の第二大隊と第四大隊が、鬨の声を上げながらゴブリン軍団へと突撃してきた。


第二大隊はケンタウルス族を中心とした騎兵部隊で、第四大隊はウェアウルフと豹の亞人であるグエイン族の混戦の機動部隊であり、どちらも機動性に優れた大隊であった。二つの強力な大隊による突撃で、ゴブリン軍団は散りじりに引き裂かれる。元々はそれほど指揮の高い軍ではないので、その攻撃で組織的な動きは失われた。


個々での戦闘に移行したゴブリン軍団であったが、数の多さはまだまだ驚異で、ルソ師団は激しい戦闘を繰り広げていた。

「囲まれるな、確実に一体づつ倒していけ!」


そんな奮闘も虚しく、さらに試練は続き、敵の大きな援軍が接近していた。南からはクルセイダー王国の大規模兵団その数、十万。西からはエルサフィ王国の軽装騎兵団、五万、東からはラグマーン帝国の主力戦力の一つである地龍兵団一万が、ルソ師団の最後尾へと食らいついてきた。


ゴブリン軍団を駆逐していたルソ師団、第二大隊は、東から接近してきた地龍兵団に完全につかまった……硬い鱗に包まれた地龍の突進は強烈で、戦闘中に不意を突かれた第二大隊はその強力な攻撃をまともに受ける。

「地龍の攻撃を正面から受けるな! 攻撃を受け流すんだ!」

ケンタウルス族の英雄である第二大隊大隊長のクルスクは、地龍の突進力を測って、それを押し返すのは不可能だと判断した。とっさの指示であったが、狙い通り被害を最小限に抑えられた。


ルソ師団の三の大隊は、度重なる敵の攻撃に足を止められ、後退するルソ師団、本隊と少しづつ距離が開いていった。ルソも三つの大隊を見捨てるつもりはないのだが、側面からも迫ってくる敵に対しても対応する必要がある為に、後方ばかりに兵を送るわけには行かなかった。


しかし、三つの大隊と本隊の距離が開いてしまったのは、最悪の結果を生む。エルサフィの重装騎兵団が、三つの大隊と本隊を分断するように突入してきたのだ。


「これは大変なことになったな……このままでは完全に包囲される……」

クルスクはその最悪な状況を見て焦りを隠せなかった。

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