第153話 絶望的な撤退戦
南西、東、西、北と、四つの軍に包囲されたアースレイン軍は突破口を見つけようとしていた。
「南と東がまだ兵力が少ない、そちらから包囲を抜け出すことはできないか」
「少ないと言ってもどっちもこちらの倍以上の戦力だ、突破しようにも簡単ではないぞ」
そんな軍議中に、一人、アズキは出撃の準備をしていた……
「アズキ上位将軍、まだ作戦も決まっていないのだぞ、どうするつもりだ」
「話し合いなんて無駄だ、やることは決まってる、それより時間の経過での状況の悪化の方が怖いだろ」
「だから、そのために、早急に作戦を決めて……」
「おい、ルソ、もしかして全員生きて帰れるなんて寝ぼけたこと考えてんじゃないだろな、そんな夢物語より、目的の為にどうすべきかもう一度、考えろよ!」
「だったらどうするって言うんだ!」
「待て、ルソ……アズキの言うことが正しい……作戦は一つしかないんだよ……後は誰がどの役目を担うかだ」
昔からの盟友であるジュゼの言葉に、ルソも押し黙った……
「ちょっとみんな、なんの話をしているんだ?」
裕太一人、なんの相談をしているか理解できずそう聞く──それにルソが説明した。
「撤退戦で一番大事な役割は殿の軍です……おそらく、これほどの戦力差だと……殿の軍は生きては帰れないってことでしょう」
「え、ちょっと待て、それじゃ、誰が死ぬかって相談をしてるのか?」
「平たく言うとそうなります……」
「そんなのは俺は認めないぞ! 誰が死んではダメだ!」
「エイメル! 無理なものは無理だ! ここは私たちに任せろ!」
珍しくアズキの真剣な表情に、君主であるはずの裕太は何も言えなくなった……
「わかった……だけど誰が殿になろうと、死ぬことだけは絶対に許さないからな!」
「わかってるよ、死ぬつもりはない」
しかし、そのアズキの決意とも言える言葉に、ルソが激しく否定した。
「アズキ、お前には別の役目がある、残念だが、殿は俺に譲ってもらうぞ」
「ダメだ、私じゃなければダメだ! 自分を過大評価するわけじゃないけど、今のこの軍で一番、戦闘力が高いのは私だ、だから生きて帰れる可能性は私が一番高い! だから……」
「アズキ……お前は北の敵軍の中央をこじ開けて、エイメル様の逃げ道を作るって大事な役目がある。それは突破力と攻撃力があるお前の軍しかできないことだ……」
「だけど……」
「アズキ! 何が一番大事かってお前こそわかってるのか! エイメル様を無事に逃がすことが我々の最大の使命だぞ」
アズキは、その言葉を否定することはできなかった──
その後の話し合いで、撤退戦の各役割が決定した。殿はルソが務め、撤退の突破口をアズキの師団が担うことになった。ジュゼとランザックは裕太を守りながら、殿のルソの援護を行う。
こうして、絶望的な撤退戦が開始される──先制として、リリスの魔法で北方面の敵に大打撃を与える予定であったが不測の事態でそれもできなくなった……
「リリス、どうした……」
空の一点を見つめて、真剣な表情をしているリリスを見て、裕太はそう尋ねた。
「エイメル……どうやら私はお主と一緒には行けないようじゃな……」
「えっ……何を言ってるんだよリリス……」
「中々の強敵が近づいておる……あれの相手は私にしかできんじゃろ」
裕太が目を凝らしてみると、空を飛んで近づく巨大な影が見えた……それは宇喜多歩華の最強戦力の一つ、URスカイドラゴンであった……
「リリス、お前……」
裕太の言葉に、リリスは少し微笑みながらこう言った。
「死ぬではないぞ、エイメル……」
そう言うと、リリスは空へと飛び立つ、そんなリリスに、裕太は強く言葉をかけた。
「ダメだ、リリス、お前こそ死んじゃダメだぞ!」
裕太の言葉に振り向くことなく、リリスは空を飛んでスカイドラゴンを迎え撃つべく殿のルソの軍へと合流していった。
「レプセリカ女王、敵軍が撤退を始めました!」
「そう……それは賢明な判断ですね……でも、逃がすつもりはありません。全軍に通達、どんな被害を出しても、必ずエイメル・アースレインの息の根を止めなさい! 絶対に逃がしてはダメです!」
ここで裕太を逃せば、今までの準備が全て水の泡となる……歩華はそう考えていた。それほど、この戦いは彼女にとって重要なものであった──
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