第151話 シュタット王国侵攻
シュタット王国領内へ侵攻して2日、敵の姿はいまだに見えない──なんの障害もなく、裕太の率いるアースレイン軍はシュタット王国の王都へと向かっていた。
「どういうことかな、シュタット軍はどうして何もしてこないんだろう」
攻撃隊どころか、先方隊どころか偵察の姿も見せないこの状況に、流石の裕太も不思議に感じていた。
もしかしたら宇喜多歩華が何かしらの計略で、シュタット軍の動きを封じているのかもしれない……だとするとなぜ自分に伝えてこないのだろうか……裕太は少し疑問には思ったが、宇喜多と阿波との合流地点である、シュタット王国の王都へと軍を進めていった。
王都に到着しても、周りに敵の姿が見えない、それどこらか宇喜多たちの国の軍の気配もしない状況に戸惑っていた。
「エイメル、ちょっと様子が変だぞ……」
アズキが状況の異常さを指摘する……
「確かにおかしいな……敵軍の気配どころか人の気配すらしない」
規模から見ると、シュタット王国の王都の人口は少なくとも数百万はいると思われる、だが、そんな大都市の王都とは思えないほど静まり返っていた。
「エイメルさま、引き返しましょう、このまま王都に入るのは危険すぎます」
ジュゼ上位将軍が裕太に助言する。裕太はその言葉を聞いて少し考える……ここは一度、宇喜多に聞いてみた方がいいかもしれないない、そう思った裕太は全軍をここで待機させることにした。
「確かにこのまま王都に入るのは危険かもしれない、だけど引き返すほどではないかな……なので、全軍、一旦ここで待機して、王都には偵察を送って様子を探ってから進むとしよう」
「御意に」
アースレイン軍は、シュタット王国の王都の目の前で、野営の準備を始めた……
自分のテントを設営させると、裕太はすぐにチャンネルを開き、宇喜多歩華との回線を繋いだ。
「おい、宇喜多、どうなってるんだ、シュタット王国にはシュタット軍どころか、どこの軍もいないようだぞ」
「ごめんなさい、飛田くん、ちょっと計算とは違うことが起きてるのよ」
「なんだよ、その計算とは違うことって」
「実はアジュラ王朝とシュタット王国が、北方平和協定を脱退する動きを見せていて……アジュラ軍とシュタット軍の動きを、こちらも把握できていないのよ」
「それじゃ、この状況がどう言うことか、宇喜多にもわからないってことか?」
「そうなの……少し前に、シュタット王国で大規模な動きがあったのは確認してるけど……」
「じゃあ、どうするかな……このままシュタット王国の王都に入っても、それが罠だって可能性もあるってことだよな……」
「そうね、王都に入るのは少し待ってもらった方がいいかな、アジュラとシュタットの動きを掴んだら連絡するわ」
「わかった、それより宇喜多たちの軍はどうしてるんだ、シュタットで合流の予定だったと思うけど」
「それなんだけど、アジュラ王朝がそんな不穏な動きをしているから、アジュラとの国境に軍を展開しなきゃいけなくなってて……瑠花の軍はもうすぐそっちに到着するはずだけど……」
「そっか、それじゃ、最悪、阿波のとこと共同戦線を張ればいいんだな」
「そうね……ちょっと予定より厳しい戦いになるかもしれないけど、ごめんなさい」
「いや、大丈夫、阿波の軍がいるならなんとかなると思うしな」
宇喜多から、北方平和協定内のトラブルの話を聞き、裕太は今の不穏な雰囲気を理解した。もしかしたらシュタット軍だけではなく、アジュラ軍とも戦闘になる可能性が出てきたのは不安材料ではあるのだが、宇喜多の盟友、阿波瑠花の軍がすぐ近くまで来ていると知ると安心していた。
「エイメル、偵察隊の第一陣が戻ってきたぞ」
なんの了承も得ず、アズキがそういいながら裕太のテントに入ってくる。いつものことなのか、そんな家臣の無礼も気にせず、裕太は笑顔で向かい入れる。
「それで偵察隊はどんな情報を持ってきたんだ」
「やはり妙だぞ、王都には、兵の姿どころか一般市民の姿も見えないそうだ」
「そうか……伏兵で待ち構えてると思ったけど……」
「私もそう考えたけどな、どうやら罠というより、何か別の理由があるのかもしれないな」
「これはまだ王都には入らず、もう少し様子を見た方がいいな……アズキ、全軍に警戒しつつ、休むように伝えてくれるか」
裕太の指示に、アズキも頷いて同意する。二人とも、そんな会話をしながらも、妙な不安を感じていたが、その場では言葉にすることはなかった──
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