第148話 キリューダ帝国滅亡

アルボア軍の崩壊により、リダボア軍も窮地に落ちいていった。

「アルボアは何をしているのだ! ほとんど統制が取れてないではないか!」

リダボア軍は辛うじて十万ほどの兵をまとめると、反撃に転じ用とした、しかし、その時には周りはアースレイン兵ばかりでどうすることもできなかった。


アルボアも同じようにできる限りの兵をまとめてくれれば、状況は大きく違ったであろうが、その頼りのアルボアはすでに逃亡していて戦場から離れていた。


乱戦で次々と兵を失っていくなか、リダボアの頭にも撤退の二文字が浮かぶ。

「くっ……もはや反撃は叶わぬ、全軍に撤退の命令を出せ!」

その命に従い、リダボアの側近が矢に特殊な球を付けて上空に向かって射った。矢につけられた球からは濃い朱色の煙がモクモクと溢れ出し、キリューダの全軍に、撤退を知らせる。


キリューダ兵たちは、戦闘を止めてその場から逃げ出した。バラバラと逃げ出す方向もおもいおもいに、とにかく敵から遠くへと逃亡していく。


完全に軍として崩壊したキリューダに対して、ジュスランは無用な追撃は命令しなかった。


「追撃しなくて良いのですか」

副官の助言に、ジュスランは微笑みながらこう答えた。

「あそこまでバラバラに逃げる敵を追撃して、自軍の陣形が広がるのは好ましくないからな」

言葉ではそう言ったが、逃げた兵が脅威にならないことを知っているジュスランにとっては、無駄な殺生になる追撃を命令することはできなかっただけであった。


キリューダ帝国の主戦力を打ち破ったジュスランは、全軍をキリューダの帝都に進めた。帝都を守るキリューダ軍は30万ほどで、攻めるアースレイン軍の半数ほどであった。


劣勢のキリューダ帝国は、建国から三百年、大きな攻撃を受けた経験がないこともあり帝都の防衛力は高くなかった。高い城壁も、守りの為の砦も少なく、二人の大将軍の敗北は兵の士気も低下させていた。


開戦から終始、アースレイン軍がキリューダ軍を圧倒して時は進み、数時間で帝都の主要箇所はアースレイン軍に占拠され、残すは皇帝の居城だけとなった──


「徹底抗戦だ! この歴史あるキリューダ帝国を潰すわけにはいかない!」

帝国の高官の一人の言葉に、別の高官が冷静に言葉を返す。

「とは言ってもな、すでにこの城は完全に包囲され、反撃する兵力もなく、追加の北方平和協定の援軍を要請しても、間に合う見込みもなかろう……ここは降伏して、命だけは拾うのが得策であろうな」

「アースレイン軍が我々の命を助ける保証などないだろ! ここは戦うべきだ!」

「いや、戦うのは無駄だ、降伏しよう! もしかしたら交渉によっては帝国の存続を認めてくれるやもしれぬ、そうなれば国を潰すこともなかろう!」


高官たちの話し合いはまとまることがなかった。キリューダ帝国皇帝はそんな様子を黙って見ている……幼少の頃に父を亡くし、皇帝に祭り上げられた彼には政治を動かす実力も実権もなかった。ただの飾り物である彼にとって、この国がどうなろうがそれほど重要なことではない。

「余は降伏しようと思う」


そんな皇帝が、国を動かしていた高官達に初めて意見した……物言わぬ置物だと思っていた皇帝の言葉に驚く一同……


「降伏ですかな……そうなるとあなたは首をはねられますよ」

「それで良い、もう余は疲れた……」


さすがの高官達も、そんな皇帝の言葉を無視することはできなかった……アースレイン軍の包囲から半日、キリューダ帝国は、アースレインに対して、全面降伏を申し入れた。



戦いは終わり、キリューダ帝国は解体されることになったが、皇帝を始め、高官達の誰も処刑されることはなかった。これは裕太の方針であるのだが、敗北を認めた相手に対して、アースレインは寛大な対応がなされる。


皇帝は一般市民になるのだが、自分の幸せを知らない飾り物の皇帝にとっては、これからの人生の方が、よほど幸せに感じることであろう。





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