第146話 砦の戦い
大きな犠牲を出しながらもキリューダ軍の攻撃は止まることはなかった。全方位から迫り来る敵に対して、守りを固めるアースレイン軍にも疲れが見え始める。
「東側の防御が弱くなっている、大隊を二つ援軍に遅れ」
ジュスランは丘上にある砦のさらに高く作った高台から戦況を見渡し、的確な指示を出していた。
「さすがはキリューダの双璧と呼ばれるだけはあるな……力任せの攻めかと思ったら、ちゃんと考えているようだ……」
ジュスランはアルボアとリダボアの二人の戦術の意図に気がついた。全方位の力任せの攻撃は、すべて一点突破攻撃の目くらましであった……アースレインの砦の弱い部分に、二人とも強力な攻撃部隊を準備していたのだ。
攻撃部隊の中には大獣部隊も見える、アプスは大きな体の割に動きは素早く、あれが駆け上がってきたら、急拵えの壁など一溜まりもないないだろう。
ジュスランは大獣部隊が攻めてくるであろう箇所へ、鉄騎ゴーレム兵団を動かした。これで仮に壁を突破されたとしても、鉄騎ゴーレムの力で押し返すことができるだろう。
しかし、そんな備えは無用となろうとしていた。
「ジュスラン大将軍、アズキ上位将軍が兵を率いて、援軍に参りました」
「ほほう、クリシュナは流石に仕事が早いな、もうバズクレンを制圧したのか……」
「アズキ上位将軍の軍は、大獣部隊に後方から攻撃するようです」
「さすがは赤い戦女、一発で敵の弱みを嗅ぎつけるとは鼻が利くな……こちらも何もしないでアズキに手柄を持ってかれるのも癪だ、後方からの強襲を支援しろ!」
アズキの知識でも知恵でもない野生の勘は、キリューダ軍の最強戦力を見抜いていた。迷わず、巨大な魔獣で構成された敵部隊へと攻撃を仕掛ける。
アズキの強襲は完全にキリューダ軍の虚を衝く、予想だにしない敵の出現に、キリューダのアルボア軍が一時的な混乱状態となった。
「アースレインの増援だと! まさか伏兵を用意していたのか……くっ……後方の部隊を全てその増援の殲滅にあてろ! 一人も生かして返すな!」
強襲されたアルボア大将軍はすぐにアズキに対して対応を命令した。
混乱しているアルボアの率いる軍を見て、リダボア大将軍はそれを好機とみた。
「ふっ、アースレイン軍がアルボアと戯れている今がチャンスであろう……軽装突撃隊に、壁を突破させろ!」
軽装突撃隊は、機動力と攻撃力を兼ね備えたリダボア軍の切り札であった、重い鎧などは一切装備せず、攻撃力の高い小型武器を持って敵に突撃する命知らずの集団である。
一気にアースレイン軍が布陣する丘を駆け上がった軽装突撃隊は、防御の薄い砦の壁を狙い襲いかかった。不意の攻撃に、防御するアースレイン軍も一瞬混乱するも、その場を指揮していたルソ上位将軍がすぐに立て直す。
「敵は少数だ、焦らず持ち場を守れ!」
統制のとれたアースレイン軍は、組織的な防御で壁を身軽に飛び越えてくる軽装突撃隊を一人、また一人と倒していく。
それでも訓練された軽装突撃隊を完全に抑えるのは難しかった……数十人の敵に壁を突破され、砦内に戦闘が拡大された。しかも軽装突撃隊の一人一人の戦闘力は高く、少数といえど無視できるレベルではなかった。
敵の侵入した箇所の砦の壁は、すでに防御能力を失い、そこから溢れ出る湧き水のごとく、キリューダ兵が砦内へ侵入してきた。
「ルソ上位将軍、敵の侵入を防ぎきれません!」
ルソは部下の報告に頷くと、伝令を送るように指示を出した。
ルソの伝令はジュスランに届けられ、すぐに対応する部隊が送られた──
「ハハハッ──アースレインも大したことないのう、軽装突撃隊が突破した箇所から、どんどん兵を送り込め!」
すでに勝利を確信していたリダボアであったが、突破したはずの箇所の異変に気がつき目を見開く。それは砦に突入した自軍の兵たちが、風で吹き飛ぶ落ち葉のように弾き返される光景であった。
「なんだ、何がお起こっているのだ!」
砦内では、ジュスラン軍の主戦力である鉄騎ゴーレムの部隊が侵入したキリューダ兵を一掃していた。
鉄騎ゴーレムの一振りで、数十人のキリューダ兵が吹き飛ばされる──さらに鉄騎ゴーレムの登場で押されていたアースレイン兵たちも息を吹き返し、キリューダ兵を殲滅していく──
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