第145話 キリューダの戦い

アースレイン軍がキリューダ帝国へ侵攻して10日……アースレイン軍は、キリューダ帝国の帝都のすぐ近くまで侵攻していた──


「やっとまともな戦いができそうだな……」

ルソ上位将軍は、敵の布陣や規模を見てそう呟く。ここまでのキリューダ帝国との戦いは、地方領主の制圧や、警備隊との戦闘など、比較的小さな戦いしか行われてこなかった。流石に圧倒的な勝利を積み重ねていたが、ルソにとってはどこか消化不良に感じていたのだ。


キリューダは二つの大きな軍を、東側の丘と西側の平原に配置していた、その数はどちらの軍もアースレインの総兵力を上回り、50万を超えていた。


「大獣部隊も見えるな……」

大獣とはキリューダに生息するアプスと呼ばれる魔物で、体長は数十メートルもあり、体の大きさに比例して高い戦闘力がある。


「ジュスラン大将軍、どうします、同時に二軍を相手にするのはさすがに面倒ですが……」

「もちろん、各個撃破したいが、二つの軍の配置している距離が絶妙だな……下手をすると挟み撃ちにされる可能性がある」


「では、こちらも二軍に分けますか、兵数では劣りますがこちらには鉄騎ゴーレム隊もあります、負けはしないと思いますが……」

「いや、二軍にわける必要はないだろう、全軍で防御を固めて相手を迎え撃つ」


ジュスランはアースレイン軍が布陣している高台に砦を作るように指示した──長期戦を見越しての戦術に思われたが、ジュスランは本人は早期での決着を予見していた。



「ミルグ丘に砦を作り始めただと……」

アースレイン軍の動向を部下からの報告で聞いたアルボア大将軍は眉を細め、怪訝な顔をする。

「砦の完成の具合はどうだ」

「五割ほどが完成しているかと」

それを聞いたアルボア大将軍は立ち上がり号令をかけた。

「全軍に出撃準備をさせよ! ミルグ丘に陣取る賊ども成敗しに参るぞ!」



アルボア大将軍がアースレインへの攻撃を決めたその時、キリューダのもう一人の将であるリダボア大将軍にも同様の報告が来ていた。

「ほほう……砦を作り始めたと……」

「どういたしますか、まだ、砦が完成する前に叩き潰しますか」

「ふっ、捨てておけ、そんな砦など、こちらから攻めなければ何の意味もなかろう」

「しかし……アルボア大将軍様の軍は、砦を潰すために軍を出撃させたようですが……」

「何だと! なぜそれを早く言わん! 我が軍もすぐに出撃の準備だ! アルボアに手柄を取られてはならぬぞ!」


アルボアをライバル視しているだけあって、アルボアのことを心の底では高く評価しているリダボアは、アルボア軍が負けることなど微塵も考えていなかった、その為に、先に攻撃されるということは手柄を取られるという意味になり、実績で後塵を拝することになると考えたのだ。



キリューダの二軍が、我先にと競いながら小高い丘の上に作られたアースレイン軍の砦に攻め上がってきた。二軍に分かれた軍と、二人の互角の将の存在を知っていたジュスランは、この状況を読んでいた。地の利は完全にアースレイン軍に有利な状況であるが、お互いを意識しすぎているキリューダの将の二人にはそれが見えていない。


「矢を放て!」

アースレイン軍の砦から放たれた無数の矢は、手柄を競い合っているキリューダの二つの軍に降り注いだ。


攻撃することに意識がいっていたこともあり、アースレイン軍からの矢の雨は想像以上に効果があった──多くのキリューダ兵が矢の餌食になり倒れる。


矢は次々とアースレイン軍の砦から降り注ぐ、突撃に対してある程度の損害は覚悟していたキリューダの二人の将はそれでも攻撃の命令を撤回しなかった。


キリューダ軍が丘上の丸太で作った城壁にたどり着いた時にはかなりの損害を出していた。しかし、見るからに急拵えの城壁など簡単に突破できると考えていた二人の将は勝利を確信している。


確かにアースレイン軍の作った城壁は強固ではなかったが、丘上に作られており、下から攻めてくるキリューダ軍には簡単に突破できるものではなかった。さらに守る兵は強兵で、キリューダ軍の猛攻は幾度も跳ね返される。

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