第144話 バズクレン滅亡とキリューダ侵攻

「馬鹿な……何なんだあの光は……」

現実とは認めたくない……ベフルク大将軍は自軍に襲い掛かった悲劇を見て、呆然としていた。


すでに勝敗は決していた。ラファエルの光を受けて戦意喪失したバズクレン軍は、アースレインの猛攻を受けてまともな反撃もすることなく殲滅させられていった。


バズクレン軍の大将であるベフルク大将軍は逃げていた……自らが指揮するはずの軍を放り投げて、恥も外聞も忘れ、馬を必死に走らせて逃走した。アースレイン軍は化け物だ、戦ってはいけない魔の軍である……そう心で何度も呟きながら自分の行動を正当化した。



バズクレンはアースレイン軍への先制攻撃に戦力のほんとどを投入していた為、その後は対抗する戦力もなく僅か三日で主城が陥落した。王族は十分な財産を持たされ国を追放となり、残った戦力は全てアースレインへと従属することになる──


「バズクレン、あっけなかったな」

まだ戦い足りないアズキの一言に、双子の姉妹が反応する。

「それだけ私たちが強いのですよ」

「そうね、無敵よ」


「クリシュナ、それでこの後はどうするんだ、エイメルの指示はあるのか」

戦後処理をしている忙しいクリシュナに、アズキは問答無用で追加の仕事を投げかける。

「そうだな、エイメルにはバズクレン攻略後には、他の軍団が苦戦しているようならその助力をするように言われてる」

「おっ、なら援軍でキリューダ帝国に乗り込もうぜ」

「苦戦しているならって言っただろ、ジュスランが40万の兵を指揮していて、苦戦するとは思えない」

「でもキリューダは100万の戦力の大国だろ、かなり軍も強いって聞いてるぞ」

「ジュスランの軍団には鉄騎ゴーレム兵団もあるし、エイメルから強力な戦力も預かっている、まあ、万に一つも苦戦はしないだろ」

「うっ……それでも援軍を出した方がいいんじゃないかな」

「アズキは単純に戦いたいだけだろ」

「まあ、そうだけど、わるいか!」

「……わかった、じゃ、ジュスランの援軍でキリューダ帝国へ行ってくれるか」

半ば呆れたようにクリシュナは言った。

「おっ、言ってみるもんだな、思いっきり暴れてくるぞ」

「ただし、うちの妹たちも一緒に連れて行くこと、あと、ジュスランの指示には従うように」

「もちろん、わかってるよ、任せとけ」

アズキが脳筋で思考が単純ではあるが、無能ではないことを知っているクリシュナは、アズキの行動に対してはさほど心配はしていなかった、だが、キリューダ帝国攻略をエイメルに任されているジュスランたちの活躍の場を奪うのではないかと危惧はしていた。



アズキはクリシュナから十万の兵を預かり、隣国であるキリューダ帝国へと向かう。キリューダでは既にジュスランが率いる40万のアースレイン軍が侵攻していて、何度かの戦闘が行われていた。


「三つの城に、五つの砦、これだけ落とせば、流石にキリューダ帝国も本気になりますかね」

シュナイダー将軍はそろそろ大規模な戦いが始まることを予感してそう発言した。


中規模の戦闘が終わり、アースレイン軍はこれからのことを軍議で話し合っていた。軍議に参加していたのは

「タイミング的には大規模な攻撃があってもおかしくはないが……キリューダには二人の優秀な大将軍がいると聞く、その二人は人望、実力、実績、全てに置いて互角だと聞いている……」

ジュスランの言葉の意図がわからず、ジュゼ上位将軍が問う。

「それは、二人の大将軍が指揮する軍と戦うと言うことですか、それとも軍を二つに分けて攻撃してくると……」

その問いにジュスランは意外な答えをした。

「いや、まだ、大規模な攻撃には時間がかかるんじゃないと考えている」



ジュスランの予測は的中していた──キリューダ帝国、アースレイン軍の侵攻に対する軍議は混迷していた。

「二軍に分けるだと……何を馬鹿なことを言っている、軍は一軍に集中し、圧倒的な戦力差で一気に叩き潰すのが一番であろう!」

そう発言したのは四十半ばの巨漢で、キリューダの双璧の一つ、アルボア大将軍であった。

「それもよかろう、では誰が総大将となるのだ」

敵意を隠さず、そう言い返したのはキリューダのもう一つの双璧、リダボア大将軍である。

「そんなのワシに決まっておるではないか」

「ふっ、では俺はどうなるのだ、帝都で指を咥えてお前の戦果報告を待ってろと言うのか」

「貴様は副大将にしてやる、それでよかろう」

「いいわけないだろ、俺が総大将で、貴様が副大将ならしっくりくるがな」

「なんだと! ワシがお前の下に付くなど考えられん!」

「それはこっちのセリフだ、俺は誰の下にも付かん」


こうして、その日の軍議も何も決まることもなく明日へと持ち越されることになる。

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