第143話 猛防
アズキは、敵将だと思われる巨漢の武将を見つけ、手柄をあげるために馬を進める。巨漢の将、バズクレンのズハィ将軍も、アズキの姿を見て、敵将を討つために迎え出た。
ズハィはその巨漢から繰り出す強烈な一撃でアズキを粉砕する為に、大きなハンマーを振りかぶった。巨大な岩をも砕きそうなその一撃を、アズキはエイメルから貰った炎の力の宿る剣で受け止める。
ズハィは一撃で、自分の五分の一ほどしかない敵将を屠る自信があった……しかし、簡単にその一撃を受け止められたことにより動揺する。
「まさか……」
ズハィは気持ちを取り直し、次の一撃を放とうとした……だが、アズキがそうはさせない……アズキは素早く、強力な一振りを横一線に放つ──それで勝負は決まった……ズハィの体は上半身と下半身の二つに分断され、そして剣の魔力から生み出された炎に焼かれて消滅する。
挟み撃ちによる奇襲攻撃で、絶対的優位のはずのバズクレン軍は戦闘が始まって一時の間に、先鋒の二つの師団が壊滅していた……さらに後続で四つの師団がなだれ込んできたが、先の師団と同じ末路を辿ることになる。
後方からその状況を見ていたバズクレンの大将であるベフルク大将軍は、なぜそのような戦況になるか理解できていなかった。
「どうしてだ……奇襲は成功した……挟み撃ちによる包囲戦もうまく行っている……ではなぜ、我が軍はこれほどまでにおされているのだ……」
そこへ、その疑問に答えてくれる男が前線から戻ってきた。
「ベフルク大将軍! ご報告がございます!」
それは自らの師団を殲滅させられた先鋒の将であるシトゥ将軍であった。
「どうした、シトゥ」
「はい……一度後退して、体勢を立て直すことを助言しに参りました」
「なんだと! どう言うことだ」
「アースレイン軍は途轍もない強兵にございます、このままでは我が軍は、熱湯に放り込まれた雪のように溶けて無くなってしまうでしょう」
「ぬぬ……貴様ほどの男が言うのだ、大げさではないのだろう……しかし、後退して今以上の戦況を作れるとは思えぬ……ここはこのまま別の策で対応することにする」
「別の策と言いますと……」
「全軍による包囲殲滅だ、奴らは自分の力を過信しているのか、不利な状況でも陣形すら変えておらん、このまま、後方の予備軍や北方平和協定の援軍も呼び寄せ、全ての力で包囲殲滅するのだ、敵の力が強いなら、こちらは数で対抗する」
ベフルク大将軍はすぐにその策を実行する、後方で待機していた予備兵力20万を動かし、そして北方平和協定の援軍、20万に、戦闘参加を要請した。これで勝てると算段したベフルクだったが、それすらも、アースレイン軍の最強の将の手のひらで踊っているに過ぎなかった。
「兄上、敵の援軍が来たみたい」
「そうね、来たみたい」
クリシュナは二人の妹の報告に笑みを見せる。
「どうやら早めに、バズクレンは堕とせそうだな」
クリシュナは自軍が包囲されることを望んでいた、それは過信しているのでもなく、現実に、数倍する敵に囲まれても、それを跳ね返す力が自軍にあることを知っていたからである。さらにクリシュナの下にはエイメルから授かっている奥の手もあった、それには、敵が群がって来てくれる方が都合が良かったのだ。
すでにバズクレン軍よる、アースレイン軍の包囲は完成していた。80万の軍が、30万の軍を包囲している圧倒的優位な状況……通常であれば、数も多く、形勢の優位なバズクレン軍が優勢のはずなのだが、この戦いではそうはならなかった──
「強固な敵軍陣形を崩すことができません! それどころか押し返されている我が軍の損害は甚大で……」
ベフルク大将軍は部下の報告に眉を細める……
「どんな強固な岩も、いずれは崩れ落ちるだろう、攻撃を緩めるな、被害の先に勝利はある」
ベフルクは決して無能ではないが、あまりにも常識の通用しない敵の強さに、正しい判断をすることができなくなっていた──
さらにバズクレン軍に大きな災いが訪れようとしていた。
「なんだあれは!」
バズクレンの前衛部隊がざわめき立つ──それはアースレイン軍の上空に、金色に輝く飛行体が現れたからである。
飛行体の正体は、裕太がガチャで引いたUR+EX 大天使ラファエルであった……ラファエルはその美しい容姿とは対照的な、残酷な攻撃魔法を唱えていた。
ラファエルから放たれたのは無数の光の筋であった、数え切れないほどの光は、噴水のように中央から広がり、アースレイン軍を包囲しているバズクレン軍に降り注いだ。
光の筋一本で、数十人のバズクレン兵がこの地上から消滅する、その脅威的な威力に、消滅した兵は苦しむ暇もなかったであろう……
ラファエルの一撃で、戦いの勝敗は早急に決した。今の光の一撃で、バズクレン軍は全軍の九割、70万以上の兵を失ったのである。
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