第142話 辺境最強軍団
バズクレン王国に侵攻したクリシュナは、30万のアースレイン軍を率いて真っ直ぐにバズクレンの王都へと軍を進めていた。
「兄上、バズクレン軍は二手に分かれて、私たちを挟み撃ちにするみたいですよ」
「そうね、挟み撃ちするつもりみたい」
敵の動きを偵察してきたファシーとヒュレルが兄のクリシュナのそう報告する。
「どうするんだ、クリシュナ、戦力を半分に分けて対応するか?」
上官に対する口の聞き方ではないが、なぜかアズキはそんな態度でも許されている。
「いや、その必要はないだろう、正面から受ければいい」
下手な小細工をするより、その方が効率がいいとクリシュナは考えていた。
「そうか、なら私の師団が先鋒を務めるよ、ちょっと運動不足で暴れたいと思ってたんだ」
「そうだな、先鋒はアズキに任せよう、だが、俺も運動不足でな、今回は一緒に前に行かせてもらう」
「クリシュナが一緒だと敵の大将首、全部持ってかれそうだな……」
クリシュナが率いるアースレイン軍はクリシュナ直属師団を中心に、アズキ上位将軍、ブリトラ上位将軍、ダグサス城軍、ウェルダ将軍の各師団、それとファシーとヒュレルの特務師団で構成されていた。アズキ、クリシュナ、ダグサス、ウェルダなど、エイメルと辺境統一で戦った初期からの顔ぶれが中心なこともあり、この軍には亜人の姿が多く見られる。
バズクレン軍がアースレイン軍に強襲してきたのは、それからすぐのことであった──
左右から挟み込むように襲撃してきたバズクレン軍の総兵力は40万と、30万のアースレインを上回っていた。さらに奇襲に成功して、敵を挟み撃ちしていることから、バズクレン軍の指揮官、ベフルク大将軍は勝利を確信していた。
「バカな侵略者どもを残らず血祭りに上げろ!」
バズグレン軍の先鋒は二人の若手の将軍であった。一人はシトゥ将軍、刀身が歪曲した偃月刀を愛用の武器とする勇将で、一万の兵を率いて、アースレイン軍の右側に突撃してきた。もう一人の先鋒はズハィ将軍といい、身長が3メートル、体重が300キロの大男で、巨大な棍棒を武器とする猛将であった。
シトゥは突撃してすぐに違和感を感じていた……
「おい……どういうことだ……」
シトゥの副官はその質問の意図がわからなかった。
「将軍、それはどういう意味ですか」
素直に質問すると、シトゥは答えた。
「突撃して5人程敵を斬りつけたが、一人も斬ることができなかった……俺の腕が鈍ったのか……それとも何か別の要因があるのか……」
シトゥは腕っ節で将軍まで上り詰めた男である、そんな腕自慢の自分が、駆け抜けながらとはいえ、一人も兵を倒すことができなかったことが信じられなかったのだ。
「確かに私も全ての剣が弾き返されました……」
副官である彼も、剣の腕は相当なものであったが、同じように一人の兵も倒せていなかった。
不安になったシトゥは周りを見渡した……突撃して数分……そんな短時間なのに、周りの味方が随分と減っていることに気がついた……ゾクッと首筋に冷たいものが走る──
「待て! 攻撃をやめろ! 一度隊を引くぞ!」
しかし、その命令は遅かった……アースレイン軍が部隊の中心へと雪崩れ込んできて、戦場は乱戦へと変化してしまったのだ。
シトゥにも一人のリザードマンの兵が斬りかかってきた、装備などから見ても、一般階級の兵だと思われるが、その剣撃は大将首を思わせる。
「チッ……兵、一人一人の強さが尋常じゃない……」
何合か打ち合って思わず弱音が口にでる……将であるシトゥでさえ、一般兵の一人を相手にするのがやっとなこの状況で、シトゥの部下たちがどのような窮地に陥っているかは想像するに容易かった。10対1……これがアースレインとバズクレンの兵の質の差であった……アースレイン兵1人に対して、バズクレン兵10人が必要である戦力差は、時間が経過するほど如実に結果となって現れる。
「シトゥ将軍! 我が師団の生存は三割ほどです……もはや立て直しも不可能かと……ですから将軍だけでも後方へお逃げください!」
「部下を見捨てて逃げれるものか!」
「しかし、このままでは全滅するだけです! この状況をベフルク大将軍に伝え、何卒、我が軍に勝利の道筋を!」
確かにこのままでは全滅するだけで、後続の友軍も同じ轍を踏む可能性が高い……早くアースレイン軍の異常な強さをベフルク大将軍に伝えるべきだと納得した。
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