第141話 ミフカーラ滅亡

アースレイン軍と内通したカルヒナは、すぐに動き出した──自らの名で、ミフカーラ軍全てに声を上げる、それはアースレインに降伏するしか生き延びる方法はないというもので、今、降伏すれば、王都市民に害が及ばない、そして自らも助かるという内容であった。


他のどんな将が同様の言葉を言っても、誰も動くことはなかったかもしれない……しかし、それを言ったのはミフカーラでもっとも人望があり信頼されているカルヒナであったのが大きかっただろう。


王都を守っていた10万のミフカーラ軍の八割以上がカルヒナに呼応した──王都の城門は開け放たれ、ミフカーラ軍自らがアースレイン軍を迎い入れた。



「どうした! なにがあったのだ! どうして誰も王都を守ろうとしないんだ! どうして俺の命令を聞かないんだ!」


こんな状況になってもヒハブルは現状を理解していなかった……自分の命令に従うのは当たり前、自分を守るのも当たり前だと本気で思っている。


「ヒハブル元帥将軍、元帥将軍直属の第七師団以外は、謀反人カルヒナの指揮下に入ったようです」

「なんだと……あの恥知らずのアバズレめ! 女を売って、味方を増やしおったか! 構わぬ! 裏切り者は全て皆殺しにしろ!」


そう命令された部下は一瞬言葉を詰まらせるが、この上司に何を言っても無駄だとはんば諦めていた……1万の戦力で9万の戦力を皆殺しになどできるはずないだろうに……そう思うが言葉にはしなかった。


カルヒナに王都の城門が開かれ、アースレイン軍がなだれ込んできた、すでにカルヒナの指揮下にあるミフカーラ軍は、武器を納めているので、戦闘もなく、アースレイン軍は宮殿へと突入していく。


宮殿ではヒハブルの直属師団が守りを固めていたので、無駄な抵抗とも言うべき戦闘が開始され、アースレインのアッシュ上級将軍の指揮する歩兵隊と、ミフカーラ第七師団の重戦闘兵団が激しくぶつかった。


「アースレイン軍が宮殿内に突入してきました!」

「そんな報告などいい、さっさと返り討ちにしろ!」

命令すれば忠実にそれを実行してくれると考えているヒハブルは、まともな指揮をすることもなく、酒を飲んで朗報を待っていた。


ミフカーラ第七師団は想像を絶するほどに善戦していた、数でも質でも圧倒するアースレイン軍に対して、捨て身とも言える反撃を繰り返していた……それはヒハブルへの忠誠ではなく、純粋に国を思っての行動であった。


「無理に突入する必要はない、必ず息切れするからそれを待て」

アッシュはそう指示したことにより、アースレイン軍は無理な突撃などは行わず、敵の浪費を待った……


さすがに奮闘していたミフカーラの第七師団であったが、徐々に疲れが見え始め、その絶対数を減らしていき、宮殿入口の隊の陣形が崩壊したのを皮切りに一気に全軍が崩壊を始めた……


さすがの呑気なヒハブルも、劣勢の空気が伝わってきたのか、焦りの表情を見せ始めた。

「なんと、無能な奴らばかりなんだ! どうしてこんな簡単な命令もこなすことができないのか理解できん! 仕方ない、俺が直接指揮をとるしかないようだ、おい、全兵力を宮殿の中には集めろ」

「は……はい」


中庭に集められた兵は300ほどで、それを見たヒハブルは怒りの声を上げる。

「なんだこの人数は、どうしてこれだけしか集まらないのだ!」

「生き残りのほとんどの兵は、中央回廊でアースレイン軍と戦闘中です……後方で動かせた兵はこれで全部です」

「中央回廊の戦闘をやめてこっちに来ればいいだろう! そんなこともできんのか!」

「そんな無茶苦茶な……」

「無茶苦茶だと……俺に言っているのか貴様……」

「い……いえ……」

「ふっ、まあいい、今回は見逃してやろう……兵を減らせている場合じゃないからな……よし、それでは劇的な反撃を見せてやろう、全軍、俺に続け!」


三百の兵を率いて、ヒハブルはアースレイン軍に無策にも突撃した……どこに勝機を見ていたのか謎であるが、先陣を切った勇敢なヒハブル元帥将軍は、アースレインの名も無き一兵卒の歩兵に、体を槍で突かれて討ち取られた。


ミフカーラ王は、ヒハブルの討ち死にと、アースレイン軍が迫っていることを聞いて、顔面蒼白になっていた。

「な……余はどうしたら良いのだ……どうしたら命が助かるのだ……誰か教えてくれ……」

「もう……どうすることもできませぬ……ここは潔く、自害なさるしかありません」

ミフカーラ王の側近の一人がそう助言する。

「嫌じゃ! 死にとうない! 余は生きたいのじゃ!」

「王よ……お見苦しいですぞ……仕方ありませぬ、私がお手伝いいたしましょう……」

そう言って側近は王の胸を、短刀で突き刺した。

「ぐはっ! くっ……貴様……うっ……」


王が死んで直ぐに、アースレイン軍が雪崩れ込んできた──そこにいた側近たちは、王の首を差し出し、自らの命乞いをした。


こうしてミフカーラ王国は、この大陸から姿を消した──









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