第140話 滅亡への布石
アースレイン軍は王都ジウカの数キロ前で横に広く布陣した。その兵数は十万にも満たなかったが、軍旗の数などをかさ増しして、見た目だけは30万の軍勢に見せていた……
「さて、まずは北東と南西の敵の伏兵を叩くとしよう、アッシュとランザックに敵の伏兵を後方から強襲するように伝えよ」
「ハッ!」
ミフカーラ軍の伏兵は、伏兵にしては兵数が多すぎの為にアースレイン軍に完全に見抜かれていた、ブライルはその伏兵を強襲する為に、本軍とは別に十万の強襲部隊を二隊編成して、それに対応していた。
そんなアースレイン軍の動きなど知る由もなく、ミフカーラの伏兵部隊は、アースレイン本陣を強襲する為に攻撃準備をしていた。
「アースレイン軍が王都の攻撃を始めたら、後方から強襲する! 全軍、戦闘準備!」
伏兵部隊全てが、目標であるアースレイン本軍を見ていた……まさか伏兵の自分たちが強襲されるなど思ってもみなかっただろう……後方から襲撃してきたアースレインの別働隊に、抵抗らしい反撃もできずに殲滅する。
「伏兵の部隊が全滅しました……」
報告を受けたヒハブル元帥将軍は顔色を変えて報告してきた兵に逆ギレする。
「な……なんだと! そんな馬鹿なことがあるわけないだろ! 伏兵の居場所がなぜ奴らにわかったのだ……そうか、裏切り者がいるのだな、誰だ、誰が裏切った!」
剣を突きつけられて、そう迫られた兵は苦し紛れにこう話をしてしまう。
「裏切るとすれば……先ほど大将軍を解任された、カルヒナが怪しいのではないですか……」
「カルヒナだと……確かに……奴が怪しいな……うむ、そうだ、俺を裏切る奴など、カルヒナしかいないではないか、そうだ、そうに違いない! あのアバズレめ……許さんぞ……すぐにカルヒナを捕らえよ! 抵抗したら殺しても構わん!」
ヒハブル元帥将軍の命令で、クハムという将軍が二千の兵を率いてカルヒナの拘束に向かった。
「カルヒナ、貴様を反逆罪の疑いで拘束する!」
王都の自分の屋敷にいたカルヒナは、謂れの無いその罪状に反論する。
「反逆罪とは具体的にどういうことですか」
「我が軍の情報を敵軍に伝えた罪だ」
もちろんそんなことをした覚えのないカルヒナはそれを否定する。
「証拠はあるのですか、私が情報を漏洩した根拠を示しなさい」
「そんなものはいらぬ! ヒハブル元帥将軍の判断は絶対だ!」
すでに国家の滅亡を感じ取っていたカルヒナは、心の奥から深いため息をつく……
「そんなことをしている場合じゃないでしょ……敵は城壁の外にいるのですよ」
「ふっ、城壁の中のここにもいるがな……構わん、カルヒナに縄をかけろ! 抵抗するなら斬り捨てろ!」
カルヒナには抵抗する気力すらなかった……素直に拘束されるのに従おうとした……しかし、その瞬間、屋敷の外で怒声が上がる。
「何事だ!」
クハム将軍が部下を怒鳴りつける。
「大変です、旧カルヒナ師団が襲いかかってきました!」
「なんだと!」
その会話を聞いたカルヒナは、素直に拘束されるのを辞めた……今、自分が捕まれば、自分を助けにきた外の部下たちを危険にさらす……そう判断した。
カルヒナは剣を抜いて拘束しようとした兵5名を一瞬で斬り捨てる……
「カルヒナ! 貴様、抵抗するのか! 構わん、カルヒナを斬り捨てろ!」
その命令に10名程の兵がカルヒナに襲いかかるが、さすがはミフカーラ最強の武将……数秒でその全てを斬り伏せる……そして一人になったクハム将軍に歩み寄った。
「ま……まて! そうだ、こうしよう、俺もアースレインに寝返ることにする! どうだ、俺ほどの将が寝返るんだ、悪い話ではないだろ!」
「見苦しいぞ……」
そう言ってクハムを一刀で斬り伏せた。
助けにきた部下たちが気になり、カルヒナはすぐに屋敷の外へと出た。
「カルヒナ様!」
すでにクハムの部下は逃げ散っていた……カルヒナの危機を知って助けにきた旧カルヒナ師団は一万にもなり、圧倒的な兵数にほとんど戦わずに逃げていた。
「ズイホウ、すまない……」
おそらくこの旧カルヒナ師団を指揮していたであろう、副師団長にそう声をかけた。
「カルヒナ様は何も悪くありません、どう考えてもヒハブルの行動が常軌を逸しております」
「しかし、それでお前たちも反逆者になってしまったのだぞ」
「私たちの上官はカルヒナ様だけです、ヒハブルや王などその代わりにはなりませぬ」
カルヒナはその言葉に感謝と感動を感じていた。
「して、これからどうしましょうか、我々はどんな判断にも従います」
カルヒナは集まった部下たちを見渡した……自分の決断で、この者たちの運命が決まる……自分だけであればアースレイン軍に一騎で突撃して玉砕するという選択もできたが……やはり自分を慕う部下たちを犬死させるわけにはいかない……
「よし、ヒハブルが望むように反逆者になるとしよう……アースレイン軍に伝令だ、我、離反すると」
カルヒナの離反の申し入れは、ブライルによってすぐに受け入れられた──
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