第139話 王都ジウカ

「な……ジバルダが敗北しただと! そ……それはどう言うことだ! ミフカーラが敗北したと言うことか! 余はどうなるのだ! 嫌じゃ! 死ぬのは嫌じゃ!」

ミフカーラ王は、ジバルダ元帥将軍の敗北を聞いて狼狽えていた……

「王よ、安心しなされ、この王都ジウカにはまだ、二十万の兵がおりまする、それに敗北したと言っても、大将軍カルヒナを始め、十万以上の兵が撤退に成功しており、総兵力では攻めてきたアースレイン軍よりまだ多くございます」

「なに、そうなのか、なんだ慌てることもないではないか、それならばその兵を使ってさっさと敵を追い返してしまえ」


ミフカーラにはジバルダの他にもう一人元帥将軍がいる、名をヒハブルといい、主に王都の防衛を任されていた──実力でその地位に就いたジバルダとは違い、ヒハブルは有力貴族の血縁という立場からその地位まで上り詰めていた……もちろんその為、それ相応の実力しな有していなく、戦いすらまともにしたことがなかった。


「防衛の指揮はカルヒナ大将軍に一任した方が良いかと……」

アースレイン軍から王都の防衛を誰に任せるかと言った会議で、冷静に物事の量りを行える大臣の一人がそう助言する。

「ジバルダ元帥将軍亡き今、軍の最高位はヒハブル殿だ、ここはヒハブル元帥将軍に任せるべきだろう」

そんなことをしたらこの国は滅亡するだけだと考えた大臣は強く反論するが、有力貴族の血縁への配慮を推す声の方が圧倒的多く、その願いは聞き入れられなかった……


ヒハブル元帥将軍は、防衛全ての指揮をとることを当たり前のように受け入れた。

「ガハハハっ、いよいよ俺の実力を示す時が来たようだな」

初陣にて30万を超える兵を指揮することに臆することもなく、豪快に笑い、自らに忠実な部下に囲まれ上機嫌であった。


「ヒハブル元帥将軍、カルヒナ大将軍がお見えです」

「ほほう、俺に酒でも注ぎに来たのか、まあ、通してやれ」


カルヒナは、軍議を開くはずの軍議室で酒を飲み宴会をしている上官を見て表情を歪める。

「これは何事ですかな……今は戦時中ですぞ」

「戦時中だと? 何を言っておる、まだ敵の姿など見えはせぬではないか」

「敵が見えてから酔いを覚ますおつもりですか……」

「ダメなのか?」

この男は本気でそれで良いと思っている……そう感じたカルヒナは、責める気力も失った。

「それで何の用で来たのだ、カルヒナ大将軍」

「防衛戦の作戦についてお話があります……」

「何か問題でもあるのか」

「20万もの兵を伏兵で城壁の外に配置するのはいかがかと思いまして……」

「すごい作戦だろ、20万の伏兵に敵も驚くぞ〜」

「驚くのは間違いないですが、ここは籠城を念頭に置いて防御を固め、全軍で城壁を守り、北方平和協定の援軍を待つのが得策だと考えます」

「援軍などで勝っては俺の伝説の始まりが霞むではないか、ここは奇策で勝利してこそだと思わんか?」

伝説だと……何を言っているのだこの男は……カルヒナは上官のありえない発言に怒りがこみ上げてくる。

「申し訳ありませんが、今の作戦では勝利するのも難しいと考えます」

「なんだと! 俺の奇策が負けるとでも言うのか!」

「はい、残念ながら敗北するのは目に見えております」

「貴様……指揮官は俺だぞ! その俺の策を褒めないどころか非難するとは……」

「褒める要素などありません、即刻、策の変更を……」

「うるさい!! 貴様など我が軍には必要ない! カルヒナ! 貴様の大将軍の地位を剥奪する! とっと消え失せろ!」

「ヒハブル元帥将軍……」

「さっさと出て行け!」


こんな無能な男でも、カルヒナの上官であるのは間違いなく、大将軍の地位の剥奪も有効だった……ミフカーラ軍は、唯一、アースレインに対抗できる将をこの場で失ったことになる……



それから数時間後──王都ジウカの城壁から、アースレイン軍の馬影が見えてきた──その姿を見て、カルヒナは母国の滅亡を予感していた……

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