第135話 ミフカーラの女傑

カルヒナ・ディオルフ──女の身でありながら、25歳の若さでミフカーラ王国の大将軍の地位にいる武将──家は代々続く武家の名家であり、その名に恥じぬ活躍を見せていた。すでに武では右に出る者はいないと言われ、無敵の強さを誇っていた。


そんな勇名を、カルヒナ自身も肯定し、生涯、自分と互角に戦う者などいないとも思っていた……だが、今この時、自分の見識の狭さを実感していた。


もう何合、打ち合っただろう……必殺とも呼べる一撃を、何度も繰り出すが、全ての攻撃を黒い棒によって弾き返される。


ヴァルガザの不意を突いた一撃がカルヒナの兜を吹き飛ばす。それによって絶世というには大げさだが、それなりに器量の良い顔が現れる。ヴァルガザは自他共に認める女好きである──自分と互角に打ち合う武将が女と知ると、その戦意を失った。

「貴様! 相手が女だと知れば逃げるのか!」

ヴァルガザはそんなカルヒナにこう言葉を投げかける。

「悪いが俺は女はベッドの上でしか相手にしないことにしている──本気で俺の相手がしたいのなら、今夜、俺の寝床に来るがいい」


その言葉に、カルヒナは自分を侮辱としたと判断した。すぐに頭に血が上り、逃げるヴァルガザを追いかけようとした。だが、すぐに周りの部下に止められる。


「今は、混乱した部隊を立て直すことを優先してください」

もっともな助言に、カルヒナは大きく深呼吸して落ち着きを取り戻す。

「我が指揮下の部隊は南東の丘に集結するように伝令を送れ! そこで軍を立て直して反撃する」


カルヒナが指揮をするのは六個兵団、15万──しかし、この時、すでに五万の兵を失っていた……それでも十万の兵があれば、十分反撃の糸口を掴むのことは可能であろう。


カルヒナが、軍の指揮の回復を行おうとしている頃、オーダン大将軍は、中央にてアッシュ、ランザックの両軍の攻撃にさらされていた。


「オーダン大将軍! すでに軍の半数は討ち取られました」

「──全軍、後方に下がらせろ!」

「申し上げます、すでに後方に敵軍が流れ込み、退路を断たれています」

「ばかな……これほどの短時間で後方にだと……敵はどこから現れたのだ」


オーダンの軍の後方の退路を絶ったのは、アッシュ上位将軍の軍であった。行軍スピードが異常に早いのもあるが、最初から敵の退路を断つのを目的に動いていたので、敵に動きを気づかれるより早く、後方に回り込めていた。


混乱している上に、挟み撃ちで攻撃を受けているオーダン軍が殲滅するのもそれほど長い時間は必要なかった。すでに軍の九割を失ったオーダンは最後の決断をする。

「生き残りはシュガト城へ逃げ込むように指示を出せ」

「しかし、敵に囲まれたこの状況ではそれも難しく……」

「俺が敵の注意をひく……その間に貴様が指揮をとってシュガト城への活路を開け」

「オーダン大将軍……」

オーダンの副官は、それ以上、何も言わずに頭を少し下げて、その場を後にした。


オーダンの最後の戦いは、大将軍の名に恥じぬ、激しいものであった──15万の兵を指揮していた大将軍が最後に指揮するのは僅か千騎の兵だけ……その少ない兵たちも、包囲戦でボロボロの状態だった。だけどその兵たちの多くは古くからオーダンに仕えていたものばかりで、その指揮は高く、強兵といってもよかった。


「ランザック上位将軍! 敵軍がこちらへ向かってきております」

「それで数はどれくらいだ」

「千騎ほどであります」

「そんな少数で……」

「しかし、中々の手練れの部隊のようで、前線の師団に大きな被害が出ております」

「よし──俺が直接、潰してやろう──すぐに準備しろ」

「はっ!」


ランザックは五千ほどの兵を率いて、死に物狂いで暴れまわるオーダンに真っ向からぶつかった。


数での優位と、兵の強さではやはりランザックの部隊の方が上であった。しかし、オーダンには最後の戦いと決めている必死さがあった。死に物狂いで戦う軍は強い……ランザックはそれを身をもって知る事になる……


敵の兵を一人倒すのに、こちらは3人の被害を出していた……単純な強さではそのような計算にはならないはずだが、現実はそれほどの被害をランザックに与えていた。


「これほどの被害を出すとはな……」

千騎の敵に対して、三千近い兵を失い、ランザックはオーダンを討ち取った──

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