第136話 盆地の決戦
「オーダン大将軍、チベム大将軍の両名が討ち取られたようです……」
その報告を聞いたジバルダは、静かに目を閉じた──それは有能な部下を失った悲しみだけではなく、自分の采配のミスで身近な者を失った後悔も含まれていた。
「後方に控える、北方平和協定の援軍に伝令を送れ……参戦を要請すると……」
できれば自軍だけでアースレインを打ち倒したかったが、流石にこの状況ではそうも言っていられなくなった。ジバルダは苦渋の選択として、援軍を要請する。
北方平和協定の援軍は、北方三強国の一角、ワグディア王国の軍とシュタット王国から送られていた。
「ズワイデン将軍、ミフカーラより参戦の要請がきております」
ズワイデンと呼ばれた男は、恰幅のいい大柄な男で、北欧のバイキングのような兜を被っていた。知っている者が見れば、海賊と見間違う風貌で、清潔感はなさそうである。
「ほほうーあれだけ自国の戦力だけで対応すると息巻いていたのに、早くも追い込まれたということか」
ズワイデンはそう言いながらテーブルに置かれた大きな肉を手に取ると、それを豪快に口に運ぶ。くちゃくちゃと肉を食いながら、部下に命令する。
「全軍、戦闘準備だ。シュタット軍にもそう伝えよ」
ズワイデンが率いるは十万の荒くれ兵であった。本国ではその粗暴の悪さで評判は良くないが、戦闘力はワグディアでも五指に入ると言われていた。そんな悪党面した兵ばかりの軍が動き出す──
アースレインに圧倒されているミフカーラであったが、シュガト城にいる兵力、20万──カルヒナ率いる10万の軍、それに後方の北方平和協定の援軍、20万を合わせれば、まだまだ兵力ではアースレインを圧倒していた。
アースレイン軍は、攻城戦兵器を前面に展開して、シュガト城の攻撃を始める。それに対して、ミフカーラ軍も、城からも巨大なバリスタや弓矢などで反撃する。さすがに激しい抵抗を見せるために、アースレイン軍もシュガト城へは近ずくことができなかった。
「ブライル大将軍、敵のバリスタなどの攻撃が激しく、城に近ずけません」
「あれほどの兵器を用意しているとは想定外だな……仕方ない……ここは悪魔たちにもう一働きしてもらうか……」
ブライルは、フェザーデーモンの部隊に、敵のバリスタの破壊を命令した。
「ジバルダ元帥将軍、敵の魔物の軍勢が空から近ずいてきます!」
「バリスタと対空兵器を前に出せ、悪魔どもを城に近づけるな!」
飛来するフェザーデーモンに、城壁からバリスタや大連弩による兵器の攻撃が降り注ぐ。さすがのフェザーデーモンでも、それらの攻撃に無傷でいられるわけではなかった。100体のフェザーデーモンのうち、城壁まで到達したのはその半分ほどである。だが、城壁の兵器を破壊するのに、50体のフェザーデーモンで十分であった。ミフカーラ軍は展開していた兵器の大半をその時破壊される。
「大変です、ジバルダ元帥将軍! 城壁に展開している兵器が全て破壊されました!」
「くっ……長槍隊を城壁へ向かわせろ──長槍で悪魔を串刺しにしてやれ!」
リーチが長く、攻撃力の高い長槍隊ならデーモンにも有効だとジバルダは考えた。確かに剣や通常の弓よりは効果的であるが、非力な兵が使う長槍の攻撃では、フェザーデーモンの防御力を貫通するのは難しいのが現実である。
フェザーデーモン部隊は、兵器を破壊すると、今度は城壁上の兵たちを殺戮していく。まさに無双状態に、ミフカーラ兵は為す術がなかった……だが、その時、独特の掛け声が上がり、城壁の内側から新たな兵が姿を現す。それは統率のとれた軍隊の兵には見えなかった……一人一人身なりが違い、装備も見た目的にはガラクタのように乱雑で薄汚れていた。しかし、その兵たちは恐ろしく強かった──
フェザーデーモンの一体は、回転しながら飛んでくる巨大な戦斧に首元を抉られ、落下する。落ちた先に、無数に群がるように押し寄せてきた異質な兵たちによって細切れに分解された。
また、別のフェザーデーモンの一体は、巨大な鎖によって体を絡め取られ、城壁の塔に叩きつけられる。そこへ巨大な槍を持った10人ほどの荒くれ兵がやってきて、体当たりするように槍をフェザーデーモンに串刺していく。
「ははははっミフカーラの弱兵は、あんな獣ごときに遅れをとっていたのか──まあ、このズワイデンが来たからにはもう安心だ、ことごとく打ち倒してくれるわ!」
ズワイデン軍は、シュガト城の後方の門から城に入り、援軍として現れた。もし、彼らが現れるのがもう少し遅ければ、シュガト城の正門は落ちていただろう……それほど劇的な登場であった。
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