第134話 猛威の追撃

アースレイン軍は、三つの砦に、それぞれ30体のフェザーデーモンを配置していた。それが攻めてくるミフカーラ軍に、カウンターのように襲いかかる。


もちろん強力な悪魔だと言っても無敵ではなく、通常兵種でも対抗する手段は存在する。しかし、アースレインは直前まで、フェザーデーモンの存在を砦によって隠し、敵にその手段を準備する前、もっとも効果的なタイミングで使用した。


最初のカウンター攻撃にて、ミフカーラ軍の三割が倒された。数にすると14万の兵が、悪魔の餌食になる。この状況にミフカーラの総大将ジバルダは全軍の撤退を決断する。


「ぐっ……まさか魔物が紛れ込んでいるとはな……」

「ジバルダ元帥将……どういたしますか──」

「全ての軍をシュガト城に集結させろ──城の守備隊には対魔兵器の準備をさせるんだ」


ジバルダの言う対魔兵器とは、強敵の魔物に用意られるバリスタや大型の連弩などで、それがあれば通常の弓や槍では傷もつけることができない魔物にも、有効打を与えることができる。


すぐに撤退したことで、被害も最小限に抑えることができた。さらに全兵力を密集させて、相手の追撃への意思を弱める効果も考えていた。その対応だけで、通常の敵であれば十分であっただろう……しかし、アースレイン軍には通用しないことを思い知ることになる──


シュガト城の周辺に集まったミフカーラ軍に対して、アースレイン軍は恐れることなく、三方から攻撃を開始した。しかもそれは、密集した敵に対して、矢とカタパルトなどでの遠距離攻撃の集中砲火であった。ブライルは第二撃としてすでにこれらの攻撃の準備をしており、敵にとっては想像にもしていなかった追撃であった。


「これでは敵の攻撃のいいマトだ! 城外にいる味方は広く陣を取れ!」


ジバルダの指示でミフカーラはすぐに軍を分散させて展開する。しかし、それすらブライルの読み通りである。分散した敵に対して、ブリトラ、アッシュ、ヴァルガザ、ランザックの四人の上位将軍が兵を率いて襲いかかった。


不意の配置変更で、陣は完全に乱れ、混乱の中の敵の襲撃に、ミフカーラ軍は対応できなかった。


まず討ち取られた将首は、右翼に展開していたミフカーラのチベム大将軍であった。


一騎当千の猛将、ブリトラに追い詰められたチベムは、10名の強者揃いの側近たちとともに、たった一人、突撃してきたブリトラと最後の戦いを演じる。


ブリトラはエメラルドグリーンの光り輝く鎧を身に付けていた。それは少し前に主君から頂いた強力な魔法装備で、軽い剣戟など軽く弾き返す。さらに武器には白く輝く三又の槍で、一振りするだけで離れた敵を細切れにする無双の武器であった。


本来でも高い武力を持つブリトラに、驚異の武具を装備させると、まさに鬼神の如く強さで、決して弱くはないチベム大将軍とその側近10名は軽く斬り伏せられた。


さらに左翼では、ミフカーラ最強の武将であるカルヒナ大将軍にも、アースレインの猛将、ヴァルガザの恐怖が迫っていた。


ヴァルガザも、エイメルから強力な装備を授かっていた。それは黒衣の鎧に、巨大な黒い棒であった。無機質なその黒い棒は、ミフカーラに、未来永劫消えることのない壮絶な恐怖を撒き散らしていた。


一振りでミフカーラ兵、30人の体がただの肉片へと変えられる。そんな武器を、ヴァルガザは1秒で三振りもしていた。秒で100名近い兵を殺戮しながら、敵の大将級の首へと迫っていた。


遠目からも明らかに異質で怪物じみた強さの存在が近ずくなか、カルヒナは冷静であった。それは自分の武力がまた、常人ならざるレベルであることを知っていたからである。


ヴァルガザが近づくと、カルヒナは、先祖代々家に伝わる白銀の槍を構えた。それは強力な魔法武器で、名をホーリースピアといった。


無双の如く敵陣を進んでいたヴァルガザに、強烈な光が差し込む、その瞬間、彼の胸あたりに、途轍もない衝撃を受けた。さすがのヴァルガザもその衝撃で後方に吹き飛ばされる。


それはカルヒナの槍の一閃であった。もし、ヴァルガザが強力な魔法の鎧である、ダグネスメイルを装備していなければ、この一撃で勝負は決まっていただろう。それほどの精度と威力の技をカルヒナは放っていた。


だが、一方、カルヒナも焦っていた。今の一撃は必殺の攻撃である……それを受けて生きていることに恐怖を感じていた。

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