第132話 ミフカーラ侵攻

侵攻する三国の中で一番戦力が低いと評価されていたのがミフカーラ王国であった。それでもブライルの率いる三十万のアースレイン軍と比べて、倍以上の戦力が存在する。


ミフカーラ王国軍の元帥将であるジバルダは、アースレインが侵攻してきた情報を受けて、すぐに軍の準備を始めた。三人の大将軍、チベム、カルヒナ、オーダンに、それぞれ十五万の兵を編成して、迎え撃つ準備を整えていた。


「敵は三十万ほどだ。数ではこちらが圧倒的に有利であり、自国で戦う地の利もある。負ける理由がどこにもないぞ」


ジバルダは側近の将軍にそう声をかける。その将軍は、アクザリエルなどの国が破れた教訓を元帥将に助言した。

「しかし、ジバルダ元帥将。あのアクザリエルやザンタリエルも、兵力では勝り、地の利もありましたがアースレインに破れております。ここは慎重に采配をお願い致します」


「うむ・・確かにそうだな・・油断はできんと肝に銘じよう」

部下の助言に素直に耳を傾けることができるのが、ジバルダの長所と言えた。このやりとりをブライルが耳にしていれば、ミフカーラ軍は容易く倒せる国ではないことをその時点で気付いていただろう。


アースレイン軍は、ゆっくりとミフカーラ王国の王都、バイナミルへと侵攻していた。途中、小さな抵抗はあったが、本格的な戦闘はまだなく、スムーズに進んでいると言えた。


「もうすでに国境を越えているのに、敵の攻撃がありませんな」

大将軍のブライルに、アッシュ上位将軍が声をかける。


「小出しに戦力を投入してくるほど、敵の大将はバカではないということだ。どこかで大軍で待ち構えていると考えた方がいいだろうな・・」


そのブライルの予想は当たっていた。ミフカーラ軍は王都手前の盆地に陣を敷き、アースレインとの戦いの準備を整えていた。盆地を取り囲む山々に多くの砦を築き、包囲して殲滅する作戦であった。


盆地の中央の小山には、古くから使われている城があり、そこには十万の兵を率いて元帥将のジバルダが布陣する。


盆地の西側にはチベム大将軍が十五万の兵を展開する。東側にはカルヒナ大将軍が十五万の兵を展開していた。オーダン大将軍は、率いるほとんどの兵を盆地を取り囲む山々にある砦に分散して配置していた。自らは一万の兵を率いて、遊撃軍として動くようである。


北方平和協定の国々から送られてきた援軍は、後方で待機していた。その数は二十万と、頼りになる戦力であった。



ミフカーラ軍が布陣するクナシリ盆地へとアースレインが姿を見せたのは、ミフカーラの防衛戦の準備が完了してすぐのことであった。地理的に、ここでミフカーラ軍が待ち構えていることは、ブライルには予測できていた。


「北の山に砦を築こう」

ブライルは敵の布陣を見てそう決めた。容易に倒せないと判断して長期戦を覚悟したのである。


すぐに工作兵が砦の建設に取り掛かる。その間に敵の軍に睨みを利かす為に、全軍で戦闘態勢で待機した。


不穏な動きに、ミフカーラ軍が黙って見ているわけもなく、オーダン大将軍の率いる遊撃軍が偵察と牽制にやってくる。


「敵は一万ほどだ、右にいるランザックの軍に任せろ」

ブライルの指示で、ランザックが三万の兵を率いて、オーダン大将軍の迎撃に当たった。


オーダン大将軍は、戦闘をするつもりはなかった。敵の様子を見るのが目的なので、本格的に敵に攻撃はせずに、敵の軍をかすめるように移動する。そうしていると、オーダンの遊撃軍の動きに合わせて、敵の一軍が追撃に来た。想像以上にその軍の動きが早くて、後ろの部隊が捕まってしまう。


「反転して応戦するぞ」

オーダンは知将と呼べるほどの知略を持ち合わせてはなく、猛将と呼べるほどの武力もなかった。だが、兵を動かす才は誰もが認めるものであった。芸術的な動きで軍を反転させると、後ろで戦闘中の敵に襲いかかる。


まさかこれほど早く前の部隊が救援に来るとは思わなかったランザック軍は、左右から急激されて一時的に混乱する。その隙を見てオーダンは後方の部隊をまとめてそのまま逃走する。ここで深追いしていれば、混乱から持ち直したランザックの軍に殲滅されていただろう。オーダンは引き際を見るのもうまかった。



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