第127話 襲撃
アクザリエル帝国がアースレインに制圧されてまだ時間も経過してなく、地方の領主を中心に、完全にその勢力を抑え込んではいなかった。しかし、その規模は小さく、軍事的に見ると脅威に感じほどではなかった。
だが、移動中の小さな集団にとっては、十分すぎるほどの驚異を与える兵力は、まだ敵対勢力として残っていた。
「あの一行はなんだ」
「はっ。どうやらアースレイン王家の関係者のようです」
「ふん。我が物顔でワシの領地を踏みにじりよって・・・ジムリア伯爵家の力見せてくれるわ」
伯爵は自らの私兵を率いて、アースレイン王家の一行を襲撃した。この攻撃が成功したとしても、彼は間違いなく不幸な終わりを迎えるであろう。しかし、そんなことはもうどうでもよかった。祖国を滅ぼした国に、一矢報いるだけで満足なのだ。
アースレイン王国、リエナ王女の一行は、100名の護衛騎士団に守られていた。前方にも後方にもアースレインの軍が存在するので、この護衛で十分だと考えられていたが、目の前に迫る敵軍を見てそれが少し甘い考えであることがわかった。
ジムリア伯爵が率いる軍は、兵力千人ほどの規模であった。さすがに10倍の兵力に、護衛騎士団を率いるイングヴェイも焦りを見せる。
「リエナ王女たちをお守りしろ!」
イングヴェイはそう叫んで自らも二本の剣を抜く。リエナ王女たちの乗る馬車は足が遅い。どこかへ逃がすのも難しいので、馬車を中心に護衛騎士団を展開させた。
護衛騎士団は、元青竜騎士団の精鋭を中心に構成されていて、その強さは並の軍では相手になるはずもなかった。突撃してきたジムリア伯爵の軍は、先鋒の兵が弾け飛ぶように跳ね返される。乱戦になると、さらにその個々の強さが示される。
乱戦を避けるように戦えば、まだ勝つ目があったのだ。包囲して矢で攻撃するなど戦術を駆使すれば、10倍の兵力である、いくら強兵の軍とて互角以上には戦えた。だが、ジムリア伯爵は、自分の軍の方が圧倒的に数的優位に立っているのに慢心してそれを怠った。
乱戦では個人の武力の差が大きく出る。五分もすれば、その戦力差は逆転していた。
「何をしておる。こちらの方が兵が多かったのに、どうしてこんな劣勢になっているのだ」
ジムリア伯爵の言葉に軍の指揮官の男は言葉が出ない。
すでに戦闘は終わりが見えてきた。まさに圧倒されたジムリア伯爵の軍は、撤退と言うにはあまりにも見苦しい逃亡を始める。この戦いには勝つのを前提に考えていたのに、まさか敗北するとは思っていなかった。これでアースレインに討伐されるのは確実で、
逃げる敵軍を追うことはなかった。それは護衛騎士団が守りの為の軍だからである。彼らにとっては、リエナ王女たちの身を守るのが任務の全てであった。
その後は敵の接近を警戒しつつ先を急ぎ、何事もなく旧アクザリエル帝国の帝都に作られた城塞都市へと入城することができた。
北方平和協定の各国の首脳は、アジュラ王朝の王都へと集まっていた。アースレインへの対応を話し合う為である。
「レプセリカ女王、討伐軍をアースレインに送るのを反対するのはどうしてですか」
レプセリカ女王こと
「今はその時ではないでしょう。アースレインは非道な策略でザンタリエル帝国、アクザリエル帝国、イシュキリエル帝国の三国を一度に倒しています。まともに戦えば負けるはずのない三国がなぜ負けたか・・そこに我々の把握していない秘密のようなものがあると考えられるのです。なのでここは討伐軍を編成して全面戦争に向かうのではなく。アースレインの侵攻を防ぎながら、それを調査して準備をしてから全面戦争へと向かうのが得策だと思うのです」
「なるほど・・討伐軍で大軍を送り、それが何かしらの要因で敗北した時には手遅れになると言いたいのだな」
「私もレブセリカ女王の意見に賛成します。まだ本格的に動くのは早いでしょう」
そう発言したのはミュシュル女王こと
そんな会議の流れに、アジュラ王朝のサフェルリダ女王だけは眉を細める。
レブセリカ女王・・・警戒してる割にはアースレインへの内偵の手が緩いように見えるのはなぜじゃ・・それどころか北方平和協定内への動きの方が活発に見える。何か胡散臭いのう・・女狐が・・・
二人の女王の意見が通り、討伐軍の編成は行わないことになった。ただ、現在アースレインに隣接する三国の防衛力を強化して、その侵攻に対応することになった。
全て宇喜多歩華の思惑通りになっている。今、北方平和協定の全国家で討伐軍は編成されたら、さすがにアースレインでも危ういであろう。だが、その思惑はまだ先があった・・・
まだ、飛田くんの国には働いてもらわないといけないから・・・あと、5カ国・・きっかり滅ぼしてもらわないと・・
北方12カ国・・3カ国が滅び、残り9カ国・・5カ国の数字かどこから来ているかは、彼女にしかわからないことであった。
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