第126話 侵攻への礎

ザンタリエル帝国、アクザリエル帝国、イシュキリエル帝国の三国を制圧したアースレイン王国は、三国の中心に、北方侵攻の前線基地となる要塞を建設していた。場所は旧アクザリエル帝国の主城のあった場所を中心に、旧帝都を囲むように作られていた。この場所に、辺境から人員と物資が次々と送られてくる。


三国の人材の確保も積極的に行い、大幅に戦力を増強していた。特に剣闘士の国である旧イシュキリエルからは強力な兵が仕官してきていた。


「すぐに土地を明け渡した貴族には、ある程度の財産と身の安全を保証して国外退去、抵抗する者は残念だけど鎮圧して構わない」


裕太の指示で、制圧した国の上流階級に属す人々の処遇が告げられた。いつものように寛大な処遇と言えた。


王族や貴族の残した財産は徴収された。その中にはオリハルコン硬貨も多数あり、辺境と北方の貧富の差がよく見える。その徴収した財産票を見て、裕太は悪い事を考えてしまう。


すげ・・オリハルコン硬貨だけでも一万枚もある・・これだけあればガチャが100回まわせるな・・・リュジェナに内緒で回しちゃうかな・・・いや、あとでバレたら殺されるな、やめとこう。


今や大国の王の裕太もリュジャナが怖いようで、思い切った無駄遣いができないようである。数日後にリュジャナが三国の内政を見るためにここに来るので、ちゃんと許可をもらってガチャを回そうと考えていた。


リュジャナと一緒に、リエナとミホシもこちらに向かっていると連絡が来ている。どうやら周りの家臣に無理を言ったみたいだ。俺に会いたいと思ってくれるのは嬉しいが、安全なジュレンゼ城で勉学に励んで欲しいとも思う。


北方三国を制圧してからすぐに、北方平和協定の連名で使者がやってきた。もちろんそれは友好的なものではない。

「愚かなアースレイン王よ。これは北方平和協定からの宣戦布告である。ただ、占領した北方三国を放棄して辺境へ戻り、二度と北方に侵攻しないと約束するのであるなら、まだ、話し合いの余地はある」

北方平和協定の使者のその話に、裕太は軽く笑うと、こう返答した。

「まず、この三国を放棄するつもりは無いので話し合いの余地が無いことになる。そして貴様は敵の使者であり、俺のことを愚かと言った。話し合いでその暴言について話す余地はあったと思うが、それを北方平和協定が拒否するというなら、このまま安全に貴様を返す義理は無いよな・・」


そう俺が言うと、使者の顔色が変わった。

「いや・・そうでは無い・・私は・・使者として・・北方平和協定の言葉を伝えただけだ・・決して私情での発言では無い・・」

「話がわからないやつだな・・俺は貴様に愚かと言われたんだぞ・・それを許すかどうかの話をしている。誰の言葉とかは関係ない。その者を捕えよ! あとで正式に刑を言い渡す」


「き・・貴様! 使者を捕らえるなんて、どれだけ国の信用を失うかわかっているのか!」

「勘違いするな、俺は使者を捕らえたわけではない。俺に暴言を吐いた愚か者を捕らえただけだ」

「な・・・」

使者は衛兵に捕らえられ、牢獄へと連れて行かれた。使者の連れの者はそのまま捕らえることもなく返してやった。


俺も大人気ないな・・まあ、別に腹が立って使者を捕らえたわけじゃないけど・・これは北方平和協定に対するメッセージを込めている。



リュジャナの一行は、すでに旧アクザリエル帝国の領内を進んでいた。リエナとミホシと二人の家庭教師であるオーウェンだけではなく、二人の護衛であるイングヴェイと護衛騎士団も同行していた。


「リュジャナ。お父様のいる場所はまだ遠いのですか」

ジュレンゼ城を出発して五日が経過していた。長い旅路で気持ちが切れていたリエナはそう聞かずにはいられなかった。

「そうね。あと三日くらいかかるかしら・・」

「そうですか・・」

父に早く会いたいと思う気持ちと、ゆっくりと部屋で休みたいと言う思いが、彼女の気持ちを落ち込ませる。そんな姿を見て、友人であるミホシが励ます。

「リエナ。三日なんてすぐよ。それに待たされた方が、それが達成した時に、大きな喜びになるのよ」


そう言ってくれる友人の存在を嬉しく思う。確かにそう考えれば、三日なんてすぐだろう。リエナはそう考えることにした。

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