第125話 皇帝の逃亡

要塞ドナブラを陥落させると、ボルティロス軍はまっすぐと敵の主城へと軍を進めた。もはやその障害になるような兵は存在せず、まっすぐとその行軍は進む。


ザンカーリ帝国の皇帝、マティウスは玉座で目を閉じて話を聞いていた。

「すでに要塞ドナブラは制圧され・・ボルティロス軍はこの城のすぐ近くまで接近しています・・」


「この城の兵をどれくらいいる」

皇帝の問いに、家臣の一人が答えた。

「十万ほどです」

「なるほど。ボルティロスは百万を軽く超える大軍だと言ったな・・」

「はい・・・」


「一旦、国外へ逃げるとする。準備せよ。金と財宝をできるだけ持って行く。この危機を脱したら、ローダ王国とルフス王国の力を借りて必ずこの国を取り戻す」

「は・・はい」


皇帝マティウスは、家臣と十万の兵を連れて、国を見捨てた。マティウス一行はそのまま国境へと移動して、ローダ王国へと落ち延びた。


ボルティロス軍がザンカーリ帝国の帝都に到着した時にはマティウスは逃げた後であった。すぐに無血で城を制圧すると、不動はザンカーリ帝国の解体を指示した。


不動はそのまま、この城を拠点にローダ王国とルフス王国への侵攻を準備することにした。すぐに内政を整理させ、地盤を固めるように動く。皇帝に逃げられた国民は、そんな支配者たちの都合など気にすることもなく、今まで通りの生活を変えることはなかった。それどころか安定した政治をしてくれそうである、新たな支配者を歓迎していた。



宮田と須賀は、目の前にまで迫ったボルティロスの脅威について対応を考えていた。

「どうすんだ! 不動は目の前まで来てんだぞ」

「マティウスめ・・・何、俺んとこに逃げてきてんだよ・・もう少し踏ん張れよな・・」

「まあ、NPCにそんな期待をしちゃいかんってことだろ」

「それよりどうする・・もうオリハルコン硬貨も無いし、不動に対抗できないぞ」

「誰かに助けを求めるか・・・」

「他に東方にいるやついたっけ?」

「確か真田絵美里さなだえみりがいたはずだ」

「役に立ちそうに無いな・・・」

「それでも、いないよりはマシだろ。すぐに連絡を取ってみよう」


宮田は、絵美里とのチャンネルを開いて接触を試みた。すぐに彼女から返信くる。

「宮田くん。何か用?」

「真田。お前、東方だったよな」

「そうだけど・・中央近くのペティリカル王国ってとこ」 

「今、東方の不動が本格的に動き出した。そのうちお前の国にも侵略の手が伸びるはずだ。なので今のうちに俺たちと組んで、不動を倒さないか?」

「うわ・・なんか戦国って感じだね。私は王女としてチヤホヤされるだけでいいんだけど、どうしてそう戦いたがるのかな・・」

「不動を放っておけば、その王女の地位も失うんだぞ」

「・・・まあ、確かにそうね。だけど不動くんとこの国はすごく強いんでしょ? 私たちが組んだくらいで勝てるのかな」

「他に東方に、頼れるクラスの連中がいないんじゃ仕方ない」

「まだ、東方にいるよ」

「何! 誰だよ」

「私の国の隣の国。ジュピタリス王朝の天主は周防梓すおうあずさだよ」

「周防か! 存在感が薄いから忘れてたよ」


宮田はすぐにチャンネルに周防を招待した。

「珍しいですね、私に話しかけてくるなんて」

「要件から言うぞ。周防。俺たちと組んでくれないか」

「不動くん・・・ですか」

「ほほう。話が早いな。そうだ。不動が本格的に東方の統一に動き出した。このままだとお前の国も不動に飲み込まれる。なので今のうちに俺たちと組んで奴を倒さないか」


「そうですね・・確かにそうかもしれませんね・・だけど、正直私たちが組んだくらいで不動くんを倒せるんですか・・・」

「そうかもしれんが、他に方法がないだろ」

「中央の人たちに手を借りてはどうですか?」

「な・・・中央だと! しかし・・あいつらは何やら変な条約を作って、戦いを極力避けていると聞くぞ」

「私は雛鶴さんなら手を貸してくれると思ってますけど」

「雛鶴だと・・・ある意味、不動並みに厄介な奴じゃないか・・」

雛鶴の名前が出て、宮田が驚いていると相棒である須賀がこう呟く。

「毒を持って毒を制すか・・・」


どっちがより強力な毒なのか・・不動と雛鶴の毒性を比べるのもいいかもしれない・・宮田もその話に興味を持ち始めた・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る