第120話 国家滅亡
ザンタリエル帝国のタオチ皇帝は降伏を選んだ。それは命さえあれば、北方の国々の力を借りて、また皇帝へ返り咲くことができると甘い考えがあったからである。
クリシュナから言い渡された降伏の条件は、持てるだけの財産を持って、国外への追放であった。もっと重い条件だと思っていたタオチは胸をなでおろす。
ザンタリエル帝国の制圧後のことはクリシュナに一任されていた。クリシュナはすぐにザンタリエル全土に使者を送り、アースレイン王国の領土となる手配を進めた。
ザンタリエルでの地位や財産をかなりのレベルで認める布告を出していたので、大きな抵抗もなく、ザンタリエルの、アースレイン領土への変換はスムーズに進んだ。
イシュキリエルに降伏の勧告を出して二日が経過した。まだ、検討中との返答で、待たされていた。明らかな時間稼ぎだが、ブライルは待つことを選んでいた。
「ブライル。いつまで待つつもりだ。あいつら、どうせ降伏なんてしないぞ」
ヴァルガザの意見はもっともだが、降伏の返事も待たずに攻撃を仕掛ければ、制圧後のイシュキリエルの国内で遺恨を残す。後々のことを考えるとここは少し待つ必要があった。
さらに二日が経ち、イシュキリエルは降伏に条件つきで応じると言ってきた。
「降伏に条件をつけるとは・・さすがに予想していなかったよ」
ブライルも予想できなかった展開に少し戸惑う。
「それで条件とは何なのだ」
ブリトラが聞くと、ブライルが答えた。
「代表者同士の一騎討ちで勝利することだ。アースレインの代表が勝てば無条件降伏を受け入れる。イシュキリエルの代表が勝てば、アースレインは撤退しろと言ってきた」
それを言うと、将軍たちがざわつく。
「ふざけている。そんなことを聞く必要はない」
アッシュが最もな意見を言う。他の将軍たちもそれに同意している。
「だが、この条件を断れば、後々厄介なことになるかもしれない。それにこの国は剣闘士の国で、個々の力を重んじる国だ。もし、相手の代表を倒すことができれば、そのあとの処理が楽になるのは間違いない」
「ブライル。敵の条件を飲むのか」
「それは代表者次第だな。どうするブリトラ」
今、ここにいる者で最強の武芸者はブリトラであろう。猛将のヴァルガザもその事実を認めており、異論はなかった。
「受けよう。俺が勝てばいいだけの話なら簡単なことだ」
こうして、イシュキリエルの条件を受けて、双方の代表者が一騎討ちで戦うことになった。場所は帝都の外にある広場で、見届け人としてお互い10名ずつがその場に立ち会った。
アースレインの代表は、猛将ブリトラ。片手剣と中型盾を装備していた。イシュキリエルの代表は天闘士の一人で、最強の名を持つシタルエウスであった。シタルエウスはミドルソードを両手に装備している二刀流の剣闘士である。
二人は広場の真ん中で睨み合う。天闘士の一人が手を振り下ろして戦いの開始を知らせた。
最初に動いたのはシタルエウスであった。体を回転させながら剣を連続で叩き込む。ブリトラはその攻撃を盾で受けると、剣でシタルエウスに斬りかかる。シタルエウスにその攻撃を避けると、低い体勢から足元を狙って剣を振る。ブリトラは軽く後ろに飛んでそれを避けた。
シタルエウスは勢いをつけて右手の剣を振るう。ブリトラがそれを盾で防ぐと同時に、シタルエウスは左手の剣で胸をつく。ブリトラはそれは剣で弾き返すと、盾を前に押し出し、体当たりをお見舞いした。それをまともに食らうと、シタルエウスはバランスを崩した。そこを狙って鋭い突きを繰り出す。シタルエウスは紙一重でそれを避けるが、ブリトラの突き攻撃はフェイントであった。一度剣を引くと、二度目の突きをすぐに繰り出す。その二段突きを読み切れていなかったシタルエウスは、ブリトラの剣が胸にまともに突き刺さる。
その一撃で勝負は決まった。絶命したシタルエウスは静かにその場に崩れ落ちる。周りで観戦していた両陣営は、騒ぐわけでもなく、それが結果だと受け止めていた。
こうして、イシュキリエルは無条件で降伏を受け入れた。皇帝は国外追放となり、生き残った10名の天闘士のうち、2人は国を出ることになり、8名はアースレインに従属することになった。一騎討ちで最強の天闘士を打ち破ったアースレインの制圧を、イシュキリエルの人々は受け入れた。それは強いものに従う国民性の表れだったかもしれない。
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