第121話 空襲
シュペザ公爵の軍は、後方からアースレイン軍に攻撃を開始した。それほど訓練された軍ではなかったので、強襲されても、致命的な打撃を受けることはなかった。だが、帝都の守備隊と挟み撃ちにされて、さすがに放置できる状況ではなかった。
「ガゼン兄弟に、後方の軍を押し返すようにと伝えよ!」
ジュスランの指示を受けて、ガゼン兄弟の師団は、後方のシュペザ公爵の軍を背後に押し返す為に攻撃を開始した。
しかし、十万の敵に対してガゼン兄弟の師団は合わせても二万四千と、相手の4分の一しかいない。だが、そんな数の不利を感じさせないほどの強烈な攻撃が続く。
ジュスランは、後方をガゼン兄弟に任せて、帝都の攻略に動いた。帝都の守備軍は二十万・・それに対するジュスラン大師団とシュナイダー師団は六万と圧倒的に少なかった。本当は後詰の軍を待ちたかったが、このまま敵軍に挟まれたままでは状況が悪くなるばかりであった。
シュナイダー師団が、高い城壁の正門を攻撃する。シュナイダーは、もちろん前衛にアイアンギガー部隊を突撃させて、敵の攻撃をアイアンギガーに集中させる。アイアンギガーに、連弩やバリスタ、投石などの攻撃が集中した。
驚くべきはアイアンギガーのその防御力である。ジャイアントやサイクロプスに致命傷を与えるほどの強力なバリスタも、アイアンギガーには傷一つ付けることができない。
激しい攻撃を受けながらもアイアンギガーは頑丈な正門に攻撃を与える。さすがに簡単には破壊できないが、門が壊れるのも時間の問題のように見えた。
敵の攻撃が、シュナイダー師団のアイアンギガー部隊に集中しているのを見て、ジュスランは城壁への攻撃を命じた。ジュスラン大師団が、ハシゴなどで城壁をよじ登り、城壁を制圧していく。
さすがに城壁を登られているのを見て、バリスタや連弩などの強力な兵器が、その兵に向けられた。対人に対する連弩の威力は絶大であった。連弩の一回の斉射で兵がバタバタと倒れていく。
「もう少しアイアンギガーに攻撃が集中してくれればよかったのですが・・」
メイメーヨの言葉に、ジュスランが同意するように答える。
「そうだな。さすがに敵も、あの鋼鉄の塊への攻撃は無駄だと思ったんだろう」
しかし、このままでは被害が拡大する・・なんとかしなければ・・ジュスランがそう考えていると、足元にいくつもの影が走る。それに気がついて上を見上げると、無数の飛行する飛竜が見えた。
「あれはドラグネ族の・・・」
グルフィンは、手を上げて味方に合図をする。それは下降して、狙いの兵器の破壊を指示するものであった。グルフィンの合図で、無数の竜騎士が急降下してバリスタと大型の連弩を破壊していく。
バリスタも連弩も、狙いは地上を向いていた。なので空からの強襲に反応することができずに、次々と破壊されていく。
「ドラグネ族め! 完全に裏切りよって・・竜騎士をバリスタで撃ち落せ!」
しかし、その命令がドナイデンから出た時には、バリスタの大半が破壊されていた。
「バリスタの大半は破壊されています!」
部下がそう報告すると、叫ぶように命令を上書きした。
「ならば連弩でも投石でもかまわん! なんでもいいから竜騎士を撃ち落せ!」
だが、練度も投石器も同じように破壊されていて、その命令を実行するのは不可能であった。
後方のシュペザ公爵の軍にも、さらに後方から予想だにしない攻撃を受けていた。
「大変です。アースレイン軍が後方からも攻めてきています!」
「なんじゃと、どこにそんな軍が隠れていた!」
「後方の敵軍は恐ろしく強く、すでに後ろの部隊は壊滅しています」
シュペザ公爵の軍を後方から襲撃したのはアースレインの後詰の軍であった。その編成はファシー師団、ヒュレル師団、エイメル近衛師団と、精鋭部隊で構成された軍であった。
「早めに目の前の別動軍を片付けて、帝都の攻撃に参加するぞ」
あまり何も考えてない裕太でも、目の前の軍が貧弱な軍なのはわかった。なので数で劣勢な帝都の攻撃に早く参加したいと考えていたのだ。
「焦るなエイメル。大丈夫。普通に攻撃すればすぐにカタがつくよ」
急ぐ裕太を諌めるように、フィルナが言葉をかける。
「わかってる。ここはすぐにカタがつく・・問題は帝都だよな」
「そう。帝都にはまだ多くの敵兵がいるから・・」
ヒュレルの足を切った強敵が帝都にはいる。聞いているとクリシュナ並みの怪物だと言っていた・・さすがに油断していれば、俺も斬られる可能性がある・・裕太は久しく感じなかった不安を感じていた。
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