第118話 殲滅の宴

完全に敵の陣形は崩れていた。クリシュナはすべての軍に突撃を命じた。アイアンギガーを止める術を持たないザンタリエル軍は、恐怖と混乱で逃げ惑う。


ビフリンガは健在である本隊を後ろに後退させる。それは前衛の部隊を見捨てる行為であった。このまま体制を立て直せなければ、本隊だけでも撤退させるつもりであった。


しかし、そんなザンタリエル軍の本隊を後方から強襲する軍があった。アースレイン軍のルソとジュゼの師団である。二人の師団は、リフーナ草原を大きく迂回して、敵の後方に回り込んでいたのだ。


後ろからのいきなりの攻撃に、敵の本隊も混乱する。ルソとジュゼの師団、合わせて五万、敵の本隊の兵数は十万と数では勝っていたが、いきなりの奇襲と、兵の練度の違いで、戦況はアースレインに傾いていた。敵の総大将であるビフリンガも、有能な将とはいえず、その劣勢を立て直すほどの技量も持ち合わせてなかった。


戦象部隊を失ったザンタリエル軍の先鋒も、クリシュナ大師団、アズキ師団、アリューゼ師団にいいように叩かれ、もはや敗北への道筋が大きく開かれていて、抵抗すらまともにできない状況であった。すでに勝利の芽はなく、撤退をしなければ全滅するかもしれない戦況に、それすらザンタリエルの将軍たちは判断できていなかった。


そんな不甲斐ない将軍たちに代わって、小隊、中隊の隊長が、部下と自分の身を守る為に、撤退を指示し始めた。それは連鎖的に広がり、やがてバラバラにその戦場から逃亡を始める。


「逃げる兵は追わなくていい」

クリシュナはそう命じた。それはある意味慈悲のような指示であった。すでに崩壊したザンタリエル軍である、もはや勝利が見えているのに、必要以上に殺戮はクリシュナの望むものではなかった。


ジュゼが敵の総大将であるビフリンガを追い詰めていた。すでにビフリンガの周りには数十人の部下しかおらず、全力で逃げようとしていた。だが、どこもすでに敵だらけで、どっちへ行ってもアースレイン軍が待ち構えていた。


最後の部下が敵の兵に斬り伏せられる。ビフリンガはとうとう一人になり、泥だらけで逃げ惑う。水溜りに足を取られ転倒すると、アースレイン軍の名もなき兵に、槍で串刺しにされてその生涯を閉じた。


リフーナの戦いを圧勝で終えると、クリシュナはすぐにザンタリエル帝国の帝都へと軍を進めた。リフーナ草原でほとんどの兵を倒したので、帝都への道筋では抵抗もなく軍を進めた。


ザンタリエル帝国の帝都は、城壁もなく、守る兵も少なかった。北方平和協定が、ザンタリエル帝国の防衛能力をここまで下げたいたのかとクリシュナは考える。


帝都を包囲すると、すぐに帝都の城に居るザンタリエル皇帝に、降伏するように勧告した。


「ワシに降伏しろだと・・アースレインめ調子に乗りよって・・北方の援軍はどうした! なぜどの国も援軍を送ってこないのだ」

ザンタリエル帝国も、北方の国々に使者を送り援軍を要請していた。しかしなぜかどの国も返事すらなかった。


アクザリエル、ザンタリエル、イシュキリエル、この三国は、北方の国に、援軍を送るように使者を送っていた。しかし、それを妨害している国があった。それは宇喜多歩華うきたあるかの治めるシルフィーダ王国である。歩華は、北方の国々に、アクザリエル、ザンタリエル、イシュキリエルの三国が、辺境のアースレインと結託して、北方全土を制圧するつもりであるとの偽の情報を流していた。三国は援軍要請を装うつもりで、兵を三国に送ってしまうと騙し討ちにされると助言する。


その証拠に、三国は同時期に援軍を要請してくるだろうと話をする。そしてこう話を続ける。もし、辺境のアースレイン一国が、北方の三国を同時に攻撃することなど考えられるだろうかと、そして援軍を要請しなければいけないほどに追い込まれるだろうかと・・その話に北方の国々は納得した。


三国が一国に追い詰められるなど想像にもしなかったのだ。ならば話の通り、援軍の要請があるのなら、それは罠だと判断した。


こうして、三国は北方の裏切り者となり、それを討伐する動きさえ出てきた。援軍どころか討伐軍が来るとは夢にも思わないであろう。

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