第117話 巨影行進
シュナイダー師団には、アイアンギガーの試作機が編成されていた。ジュスランはそれを使ってみようと、シュナイダーに中央の突破を指示をする。
すでに左翼が崩壊して、その陣形を崩されているアクザリエル軍は、中央に兵を集めて新たに陣形を整えようとしていた。だが、そこにいくつもの巨大な影が近づいて来る。
「なんだあれは・・・」
アクザリエル軍の将軍の一人が、アイアンギガーの姿を見てそう呟く。
シュナイダーはアイアンギガー部隊を先鋒に、敵中央にゆっくりと突入する。あアクザリエル軍は今まで見たこともないその姿に恐怖で狼狽える。アイアンギガーは大きな剣を振り回して、戦いという名の殺戮を開始した。
アイアンギガーの一振りで数十人が葬られる。まさにそれはアクザリエルにとっては悪夢であった。完全に戦意を崩壊させて逃げ惑い、アイアンギガー以外のアースレイン兵にも反撃することもできずに殲滅されていく。
そのあまりの戦闘力に、ジュスランは微妙な表情でそれを見ていた。彼にとってはそれは卑怯な兵器に見えたのだ。
戦意すら崩壊したアクザリエル軍は、もはや立て直すことは不可能のように見えた。ガゼン兄弟の師団とジュスラン大師団も、混乱に揺れるアクザリエル軍に突撃を開始する。
刻一刻とアクザリエル軍の敗北の時計が進んでいく。すでに兵力の半数を失い、アクザリエル軍の総司令官である、ビュスケンは焦りを見せていた。このままでは全滅もあり得る・・苦肉の策としてビュスケンは帝都までの撤退を命じた。
撤退時にも多くの兵を失い、四十万いた兵も、帝都まで逃げ切れたのは十五万ほどであった。撤退してきたビュスケンをアクザリエルのドゥゲ皇帝は許さなかった。すぐに死刑台を準備させて、その首を切り落とした。
軍の指揮官がいなくなり、仕方なく、ドラグネ族の戦いでの失態で更迭していたドナイデンを呼び寄せた。
「ドナイデン。お前に最後のチャンスをくれてやる。攻めてきたアースレインを殲滅しろ」
「はっ! 汚名を返上する為に死力を尽くします」
そう力強く返事をすると、ドナイデンは戦いの準備をする為にその場を後にする。
「それより北方の援軍はどうした。隣国からもまだ来ないとはどうなってるんだ」
北方各国に、アースレインから攻められていることは使者を送って伝えている。遠くの国からの返事がまだないのは仕方ないが、隣国からの使者や援軍がないのはどう考えてもおかしいことであった。
「はっ。どうも隣国のザンタリエル、イシュキリエルも、アースレインの侵攻を受けていると報告が入っています」
「なんだと・・ではミフカーラ王国からは何も言ってきてないのはどうしてだ」
ミフカーラは、アクザリエルから南にある国で、もちろんそこにも使者を送っていた。
「はっ・・確かに距離を考えても援軍が来てもおかしくないのですが・・援軍どころか使者も来ていません」
「さすがにおかしいな・・まあいい。ミフカーラ王国にはもう一度使者を送れ。そしてその使者に、直接ミフカーラの意向を聞いてくるように伝えよ」
そう言って、ミフカーラ王国にもう一度使者を送ることになった。だが、その使者は、二度と祖国に戻ることはなかった・・
帝都は取り囲んだアースレイン軍は、帝都攻略の情報を収集していた。帝都の周りには高い城壁があり、多数のバリスタが設置されていた。先日の戦いで、かなりの数のアクザリエル軍を叩いたが、まだ数の上ではアースレインを上回っている。下手に力ずくで攻撃すれば痛い目を見るのは明らかであった。
「どうしても城壁上のバリスタが邪魔だな。大型の連弩も無数に見えるし、下手に近づくとかなりの被害を出しそうだ・・」
ジュスランが冷静に帝都の防衛力を図る。それを聞いてシュナイダーが助言する。
「だけど、あまり時間をかけると、地方から集まった敵軍に後方を遮断されて、我が軍は孤立してしまいますね」
「そうだな・・それは気にしてる・・予定通り後詰の軍が来てくれればいいが・・」
ジュスランやシュナイダーの心配は現実のものとなる。有力な地方領主のシュベザ公爵が、周りの貴族や守備隊を集めて一軍を編成していた。その兵数は十万にもなり、帝都を囲むアースレイン軍より多い。その軍が、アースレイン軍の後方を抑え、帝都と挟み撃ちにするように布陣した。
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